「……それで、話を戻させてもらうが」
俺はカゲロウとイノリに言う。
彼女たちも気を取り直し、俺の方へ向き直った。
「桜花城の結界は、とりあえず置いておこう。それは後で考えるとして……。他にも一つ、問題がある」
「な、何ですか……?」
イノリが恐る恐る聞いてくる。
俺はそんな彼女に視線を向けて言った。
「俺が位置関係を理解していないことだ。桜花城って、どこにあるんだ? さっぱり分からない」
「え……? そこからですか……?」
俺の質問に対して、イノリが目を見開く。
カゲロウも驚愕の表情を浮かべていた。
しかし、すぐに合点がいったのだろう。
カゲロウが口を開く。
「なるほど……。高志殿は異国からの侵入者。当然、桜花城などという場所など知るはずがないというわけか……」
「そういうことだ。ま、俺は記憶喪失だから、そもそも『侵入者』という自覚もないのだが」
カゲロウの言葉に俺はうなずく。
そんな俺に、イノリが説明してくれた。
「桜花城は、桜花藩にあります」
「いや、桜花藩とか言われてもさ……。もっと詳しく説明してくれ」
「桜花藩は、近麗地方にある藩です。天下の台所とも呼ばれている土地ですよ。女王派閥と将軍派閥の中間あたりにあるため、政治的には微妙な立ち位置ですが……。物流の拠点となっているため経済的には潤っています」
「ふむ……」
俺はイノリの話を聞く。
近麗地方……。
これまた、記憶にない単語が出てきたな。
地理が全く分からない。
「桜花藩の東には那由他藩があって、北には虚空島が浮かんでいて、西には緋水湖が――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 説明が早すぎる! 俺の頭脳では処理しきれない……」
俺はイノリの言葉を遮った。
カゲロウが可哀想なものを見る目を向けてくる。
「た、高橋殿……。記憶喪失に伴って、理解力や記憶力まで低下してしまったのか……」
「そんな目で見ないでくれ……。いや、本当に……」
俺はカゲロウに言う。
頭の具合を心配されているようだが、俺の理解力や記憶力は元からこんなものだった気がする。
脳内だけでたくさんの情報を処理するのは厳しい。
俺はイノリとカゲロウに、改めてゆっくり説明してもらう。
そして、伝えられた情報をメモしていった。
大和連邦は、その名の通り連邦制だ。
30を超える小国家――『藩』が、それぞれの地域を治めている。
厳密に言えば『藩』は国家というよりは都道府県に近い存在な気もするが……。
このあたりの事情は、ヤマト連邦の歴史にも関係しているらしい。
緩やかに繋がって対外的には『大和連邦』を名乗りつつ、内部では各藩が一定の独立性を保っている。
鎖国制度の実施にあたっては、いろいろあったようだ。
ここ最近は、鎖国制度の今後の取り扱いや導入時の禍根を巡り、諸藩の意見が対立。
東部の藩からなる『将軍派』と西部の藩からなる『女王派』が勢力を増しており、それぞれが天下統一を狙う動きを見せている。
・北烈地方(ほくれつちほう)。
北方に位置し、猛吹雪が吹くこともある寒冷地帯。
強い精神力や忍耐力を持つ者が多く住んでいる。
土地は広大だが、人が住むに適した場所は限られている。
・漢闘地方(かんとうちほう)。
古くから合戦が繰り返されていた土地であり、強い武将が多く存在している。
武術や弓術の大会が盛ん。
・中煌地方(ちゅうこうちほう)。
大和連邦の中でも、新しい技術が集まってくる場所。
将軍派の中心である『愛智藩』が位置している。
・近麗地方(きんれいちほう)。
物流の中心であり、俺が目指している『桜花城』はこの地方の『桜花藩』にある。
また、由緒正しい『神宮寺家』が住まう特殊な浮き島もあるそうだ。
・重郷地方(じゅうごうちほう)。
荒野、山岳、砂丘など、荒々しい自然が残っている。
武者修行を行う者が好む土地だ。
・四神地方(しじんちほう)。
四つの聖なる山が存在し、それぞれの山が四方を守っていると言われている。
古くからの独自の宗教儀式や祭りが残っている。
・九龍地方(くりゅうちほう)。
九つの大きな川が流れる豊かな水源地。
肥沃な土地が広がり、農業が非常に発展している。
女王派の中心である『佐京藩』が位置する。
俺がいる『霧隠れの里』は、佐京藩の外れにあるとのことだ。
北北
北北北北
北北北北
北北
北北
北北北
北北北
中中北北
中中中漢漢
現九九 重重近近中中中漢漢
九九九 重重近近近中中漢漢
九九 桜近中中
九九 四四 近近
九九 四四
現……現在地
桜……桜花藩
図にするとこんな感じだ。
どことなく地球の日本列島に近い形をしているのは、偶然だろうか?
「詳しい説明、ありがとう。大体分かったぞ」
俺はカゲロウとイノリの説明にうなずいた。
もっと詳細を聞いてメモしておいてもいいが、彼女たちの知識にも限界がある。
とりあえずはこれぐらいの情報収集でいいだろう。
それより、改めて問題が一つあることに気付く。
それは――
読み終わったら、ポイントを付けましょう!