「――よし! こんなところだろう!!」
俺はミティたちへの『ステータス操作』を終える。
ジャイアントクラーケンと戦いながらなので、熟考する時間はなかったが……。
基本的な方針は前回のミリオンズ会議で相談済みだったし、大きな問題はない。
ヤマト連邦に上陸できればまたスキルポイント20が手に入るので、使い惜しみしている場合ではないだろう。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンは、再び俺を目掛けて攻撃してくる。
俺はその触手を回避し、重力魔法で奴の周囲を飛び回る。
「さてと……。みんな! スキルを強化しておいたぞ! しばらく会えないかもしれないが……必ず戻る!! 元気でな!!!」
俺は触手攻撃を回避しつつ、船に向かってそう叫んだ。
もう相当な距離離れてしまったため、会話できる距離ではない。
だが、『聴覚強化』スキルを強化している兎獣人のモニカには、俺の声が聞こえているかもしれない。
「最後のはなむけだ。受け取ってくれ。――【エアバースト】!!」
俺は風魔法を放つ。
これはジャイアントクラーケンに向けたものではない。
ミティたちが乗っている隠密小型船の帆に向けたものだ。
ビュオンッ!!
突風により、帆が勢いよく膨らむ。
隠密小型船は急加速した。
「ゴオオオオォ……」
「ふははっ! 標的に逃げられて残念だったな。諦めて巣に帰ったらどうだ?」
俺は、そうつぶやく。
時間稼ぎ作戦はほぼ成功したと言っていい。
俺の風魔法を受け、船はほぼ視認できるギリギリぐらいの距離まで進んでいる。
もう少し進めば見えなくなるだろう。
さらに進めば、魔力による追跡すら困難になるはずだ。
だが、ジャイアントクラーケンはその巨体ゆえ、最高速度も速いはず……。
こいつをフリーにしたら、あっという間に追いつかれる可能性もある。
ここで深海に帰ってくれれば、ひと安心できるところだ。
俺としても、すぐに隠密小型船に合流できるので万々歳なのだが……。
「ゴオオォ……ッ!!」
ジャイアントクラーケンは怒りの咆哮を上げると、触手で海面を叩いた。
巨大な水しぶきが上がり、凄まじい量の海水が雨のように降り注ぐ。
「うおおぉっ!?」
俺は慌てて高度を取る。
危なかった。
もう少し海面から距離を取るのが遅れていたら、叩きつけるような海水の直撃を食らっていた。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンは、さらに追撃を加えようとする。
俺は飛び回りながら、それを何とか回避し続けた。
「諦めて帰ればいいものを……。標的を俺に変更したわけか。妨害された腹いせか……? 悪いが、簡単にやられるつもりはない。少しでもみんなの逃げる時間を稼いでやるさ」
俺はそうつぶやきながら、魔力を高めていく。
ジャイアントクラーケンに有効な属性は何だろう?
さっきは『火魔法+剣術』の『斬魔一刀流・魔皇炎斬』で、触手の1本に深い切り傷を付けたが……。
ここはいろいろと試してみるか。
「――【ライトニングブラスト】!!」
俺は雷魔法を放つ。
電撃が、ジャイアントクラーケンの目を狙うが――。
「ゴオオォッ!!」
奴は、触手でガードした。
やはり、急所である目は簡単には狙わせてくれないか。
触手にダメージが入っているはずだが、ジャイアントクラーケンからすれば大したことのないダメージだ。
人間に置き換えれば、手や足を静電気が襲ったぐらいのものだろう。
「ゴオオォ……ッ!!」
クラーケンが、怒りの咆哮を上げる。
俺という鬱陶しいハエを追い払うため、本気で攻撃してくるつもりらしい。
触手による攻撃が激しさを増す。
俺はそれを躱しながら、何か弱点はないものかと観察する。
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンの口が大きく開かれる。
奴は、そこから黒い霧のようなものを吐き出した。
「なんだあれは!? ……うわっ!?」
俺はそれを回避したつもりだったが、その攻撃範囲は広かった。
黒い霧は、俺の頭部を襲う。
「っ!? 目が……見えないっ!?」
俺は咄嗟に回避行動を取り、重力魔法の出力を上げて上空へ逃げる。
まさか視力を奪う毒か!?
……いや、これは単純に黒いスミのようだ。
だが、真っ暗で何も見えないぞ!?
「ゴオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンは咆哮を上げる。
巨大な触手が振り回されている気配を感じた。
「【ウォーターボール】!!」
俺は水魔法を発動する。
魔法の水で、目を覆っているイカスミを洗い流した。
これで見えるようになったな。
「ゴオオオォッ!!」
ジャイアントクラーケンの触手が俺に迫ってくる。
直前まで視界不良だったこともあり、避ける暇はない。
ここは――
「【ロックアーマー】!!」
土魔法を発動させる。
無から岩石を生成し、それを鎧のように身に纏った。
触手が、俺を襲う。
「……っ!!」
バシャーン!
鎧を纏っていても、衝撃自体を無にすることはできない。
俺は海に叩き落される。
だが、ダメージは小さい。
俺は海上へ復帰すると同時に、鎧を解除する。
「……やはり、この形態のままで戦えるほど甘くないらしいな。仕方ない。俺の新技を見せてやる」
俺はそうつぶやくと、闘気と聖気を開放したのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!