メルビン杯の続きだ。
第1試合のタカシvsミッシェルは、俺の勝利。
第2試合のアイリスvsババンは、アイリスの勝利。
第3試合のミティvsレナウは、ミティの勝利。
今のところは俺たちミリオンズが全勝を収めている。
そして第4試合には、エドワード司祭が登場した。
対戦相手はギムル。
俺はこの名前を聞いたことがなかったが、どうやら初級の武闘家だったようだ。
あっさりとエドワード司祭が勝った。
エドワード司祭の実力は折り紙付きだ。
ガルハード杯でも優勝していたしな。
1か月前の模擬試合では、アイリスにも勝っていた。
そして、今から第5試合が行われようとしている。
モニカの出番だ。
対戦相手はハルトマンである。
「続きまして、第5試合を始めます! モニカ選手対、ハルトマン選手!」
司会の人がそう叫ぶ。
モニカがコロシアムのステージに上がる。
対戦相手のハルトマンと対峙する。
ハルトマンとは、以前ラーグの街からゾルフ砦までの護衛依頼で同行したことがある。
彼はDランク冒険者だ。
ガルハード杯の予選にも出場していたが、彼は予選で敗退していた。
そう考えると、彼の武闘における戦闘能力はさほどでもないと言わざるを得ない。
まあ、俺の戦闘能力が高いのはチートのおかげなので、あまり偉そうなことは言えないが。
彼は彼で、優れている面もある。
護衛依頼の道中でのクイックマリモ戦では、少なくとも俺よりは活躍していた。
超高速移動するマリモを相手に堅実にダメージを与えて、討伐していた。
「よろしくね」
「こちらこそよろしく。いい試合をしよう」
モニカとハルトマン。
2人が試合前のあいさつを交わす。
「両者構えて、……始め!」
試合が始まった。
まずはお互いに距離を保ちつつ、様子をうかがっている。
「ふふふ。それにしても、タカシのパーティメンバーと闘うことになるとはなあ」
「あれ? タカシのことを知っているんだ?」
「ああ。以前、ラーグの街からここゾルフ砦までの護衛依頼で行動をともにしたことがある。火魔法に加えて、武闘のセンスもあるとんでもないやつだよ」
「そうだね」
「俺ももっと強くなってやろうと、最近がんばっているのさ。ここで負けるわけにはいかない!」
ハルトマンがそう意気込む。
確かに、自分よりも未熟だと思っていたやつが活躍して自分を追い抜いていったら、複雑な気持ちになるよな。
俺なら、ふてくされて無気力になっていたかもしれない。
ハルトマンは、刺激されてがんばろうという方向に動いているようだ。
なかなかの向上心の持ち主だ。
彼がモニカに駆け寄る。
「はあっ! せいやあっ!」
スッ。
ススッ。
モニカが軽快な足さばきでハルトマンの攻撃を回避する。
「くっ。かなりの身のこなしだ。しかし、避けているだけじゃ勝てないぜ!」
ハルトマンがそう言う。
攻撃が当たらないことに、少し焦っているようだ。
何とかモニカを挑発して、流れを変えようといったところか。
「もちろん、こっちからも攻撃するよ。……ワン・セブン・マシンガン!」
挑発に乗ったわけではないだろうが。モニカが反撃を行う。
目にも留まらぬ蹴りの連撃だ。
「なっ!? バカな……。なんだ、この連撃のスピードは……」
ハルトマンが防戦一方となる。
かに思われたが。
「……そこだ!」
ハルトマンがモニカの蹴りのスキを突き、反撃を試みる。
闘気を込めたパンチだ。
彼は闘気術を使えたのだな。
もともと使えたのか、最近習得したのかはわからないが。
「くっ!」
モニカが素早く反応し、ハルトマンのパンチを回避する。
距離をとり、体勢を立て直す。
「うそ……。私のあの蹴りを見切ったの? 自信なくすなあ」
「うそだろ……? 完全にスキを突いたはずだ。あのタイミングの攻撃を回避するとは」
モニカは、自身のキックに大きな自信を持っている。
ハルトマンに見切られたことにショックを受けているようだ。
一方で、ハルトマンはハルトマンでショックを受けている。
スキを突いた攻撃が避けられたことが信じられないようだ。
「まさか1回戦でこの技を使うことになるとはね。いくよ」
モニカが脚に闘気を集中させていく。
「剛拳流、疾きこと風の如し」
モニカの新技だ。
メルビン師範から伝授された、風林火山の内の”風”である。
彼女が超高速移動をしながら、ハルトマンに攻撃を仕掛ける。
「は、速すぎる……! 俺の目でも、追いきれないっ……!」
ハルトマンはモニカのスピードについていけていない。
俺は視力強化レベル1を持っているから、何とか見えているが。
アイリスも見えているだろう。
前回の強化で視力強化レベル1を取得したからな。
「はああぁっ! 裂空脚!」
スキを見せたハルトマンに、モニカの回し蹴りが襲いかかる。
彼は反応しきれない。
「がはっ!」
ハルトマンが弾き飛ばされる。
ドガン!
彼が、ステージと観客席を隔てる壁に激突した。
あれは大ダメージだろう。
「ハルトマン選手場外! カウントを取ります! 1……2……3……」
審判が場外カウントを始める。
10カウントがされればモニカの勝ちだ。
はたして、ハルトマンは立ち上がってくるのかどうか。
普通に考えれば、大ダメージを負っているはず。
しかし、彼は闘気術を使える。
攻撃時に闘気術を使っていた。
あの闘気をうまく防御に回していれば、ダメージを軽減させることも可能だ。
立ち上がってくる可能性もなくはない。
固唾を呑んで見守る。
審判がカウントを続けている。
「……8……9……10! 10カウント! ハルトマン選手の場外負けです! 勝者モニカ選手!」
審判がそう宣言する。
無事にモニカが勝利を収めることができた。
治療魔法士がハルトマンに駆け寄り、治療魔法をかける。
闘気術による防御が不十分で、大ダメージを負っていたようだ。
無事に治療が終わり、彼が立ち上がる。
闘気術を習得した今のモニカの足技を耐えきるには、かなりの闘気量が必要となるだろう。
俺やアイリスあたりでも、真正面からぶつかればマズいかもしれない。
そういうレベルだ。
モニカがハルトマンに歩み寄る。
手を差し伸べる。
「お疲れ様。いい勝負だったね」
「ああ。お疲れ様。……それにしても、タカシのやつ、こんなに美人で強いパーティメンバーがいて羨ましいな」
「美人? ふふっ。ありがとう」
ハルトマンの褒め言葉に対して、モニカがうれしそうにそう言う。
確かに、彼女はかわいいし強い。
それに、料理もうまい。
本来の俺にはもったいないぐらいのパーティメンバーだ。
モニカがステージからこちらに戻ってくる。
祝福しておこう。
「おめでとう! モニカ!」
「お、おめでとうございます。モニカさん」
俺とニム、それにミティとアイリスでモニカを出迎える。
「ありがとう。初めての試合で緊張したけど、勝てて良かったよ」
モニカが安心したような顔でそう言う。
彼女の今の実力なら順当勝ちといったところだろうが。
肉体的な実力と精神力はまた別だ。
俺も初めてガルハード杯に出場したときには、相当緊張したものだ。
今もまだ緊張はしているが、初めてのときと比べると少し落ち着いて闘うことができるようになった。
モニカも、この大会を通して試合慣れしてくれることだろう。
彼女の2回戦での活躍にも期待しよう。
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