「あそこだ。あの中州に、例の子がいるんだ」
「ほう……。確かに、只者ではなさそうじゃの……」
若者に案内され、老人は川の中州へと辿り着く。
そこには……
「ふぅ。いっぱい食べた……。ちょっと眠いかもー……」
一人の少女が寝転がっていた。
年齢は12歳前後だろうか。
その少女は、川の中州でのんびりと昼寝をしていたのだ。
「な、なんだありゃ……。獣人……なのか?」
「でも、耳とか尻尾はないぞ」
「馬鹿、爺さんの話をちゃんと聞いてなかったのか? 鳥系の獣人ってことだろ」
「どれどれ……。まずは儂が行こう」
周囲の村人たちが困惑する中、老人が動いた。
彼は川岸から浅瀬を通り、中州へ向かっていく。
そのときだった。
「っ! 爺さん、危ねぇ!!」
「むっ!?」
バシャッ!
川の深い場所から、突然何かが飛び出してきたのだ。
それは……鋭い歯を持つワニ型の妖獣だった。
老人が咄嗟に回避したため、その牙は空を切る。
「あ、危ないところじゃった」
「爺さん、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃ! お主たちひよっ子は、そこを動くでないぞ!」
「だ、だがよ……!」
若者が不安そうな声をあげる。
彼は老人のことを侮っているわけではない。
昔は強かったという彼の武勇伝を何度も聞いている。
かつて『不死武士隊』に在籍していた実力は、伊達ではない。
しかし、それはあくまで『現役時代』の話である。
「はぁっ! どりゃあっ! ……ぐむっ!? ひ、膝の古傷が……!」
やはり、全盛期には程遠いようだ。
古傷の痛みもあり、老人の動きはどこか鈍い。
妖獣の鋭い歯が、徐々に彼を追い詰めていく。
「こ、ここまでか……」
「爺さん!」
妖獣が大口を開ける。
若者たちが慌てて駆け寄ろうとするが、間に合わない。
老人が覚悟を決め、目を閉じたその時だった。
「【風翼防盾】」
そんな声と共に、少女が老人と妖獣の間に入る。
そして、羽を大きく広げて妖獣の攻撃を防いだ。
「……っ! お主、身を挺して儂を……?」
「大丈夫? 怪我はない?」
少女が老人の方を向き、そう尋ねる。
やはり、遠目で見て推測していた通り、鳥系の獣人のようだ。
「あ、ああ……儂は問題ないわい。じゃが、お主の翼が……」
老人が少女の翼に目を向ける。
妖獣の鋭い歯に噛みつかれたためか、少女の羽はボロボロになっていた。
「あ、これ? これぐらい、大丈夫だよっ!」
「いや、大丈夫なわけが……」
「お話はあとにしよっ! まずはあいつをやっつけちゃうねっ!」
少女が言う。
そして、彼女は足を大きく曲げ……。
「えいっ! 【マリア・バーニングタックル】!!」
自らの体に火を纏い、そのまま妖獣に体当たりを食らわせた。
その一撃で、妖獣の体は吹き飛ぶ。
「なっ!? す、すげぇ……」
「とんでもないな……」
村人たちから感嘆の声が漏れる。
そんな中、老人はあることに気づく。
少女の翼が……いつの間にか元通りになっていることに。
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