とうとう、今日はミティとの結婚式だ。
会場は村にある教会。
今は、教会の控室で着替えなどをしているところだ。
このあたりの結婚式は、一応教会のようなところで行われることが一般的らしい。
とはいえ、普段はそれほど厳格な戒律などがあるわけでもない。
結婚式などの行事のときだけ、神が駆り出されるわけだ。
村にも一応神官がいる。
神官とはいっても、普段は別の仕事をしているらしいが。
その男性が今日の結婚式を取り仕切る。
少し日本人の感覚に近いかもしれない。
結婚式や葬式、初詣やクリスマスのときだけ、臨機応変にそれぞれの宗教に応じた儀礼を行うわけだからな。
結婚式の様式は、ある程度は日本の様式と似ているようだ。
新郎側の準備部屋には、俺、モニカ、ニムがいる。
新婦側のミティは別の部屋で準備中だ。
あちらには、ダディ、マティ、アイリス、カトレアがいる。
「どうだ? おかしいところはないか?」
「いいと思うよ」
「か、かっこいいです」
俺の問いに、モニカとニムがそう答える。
俺は今、結婚式用の正装を着ている。
このあたりの地域でごく一般的な正装を用意してもらったのだ。
日本で言えば、タキシードのような服だ。
まあ少し異なる点もあるが。
「緊張するな……」
「まあ、本人たちが幸せなのが一番だし。気楽にやりなよ」
モニカがそう言う。
そうはいっても、落ち着かない。
俺がそわそわしていると、来客があった。
「やあ。タカシ君」
「これはマクセルさん。それにストラスさんとカイル君。ようこそ」
マクセル、ストラス、カイルがやってきた。
セリナとレベッカの姿はない。
ミティのほうに行ったのだろう。
「改めて、結婚おめでとう。タカシ君」
「へっ。これでタカシも妻帯者か。家庭を大切にしろよ」
マクセルとストラスがそう言う。
「ええ。大切にします。……そういうストラスさんは、セリナさんとのご予定は?」
「なっ!? 俺とあいつはそんなんじゃねえよ!」
ストラスが顔を赤くしてそう言う。
だから男のツンデレは要らないって。
「ふふふ。まあストラスとセリナの件は、俺に任せておいてよ。放っておいたら、何年もかかってしまうだろうしね。なあカイル?」
「そうっすね! 俺も尽力するっす!」
マクセルとカイルがそう言う。
ストラスはまだ何か喚いているが、放っておこう。
その後、準備を終えて万全の状態で待機する。
モニカやマクセルたちは教会の式場に一足先に向かった。
新婦側の部屋にいたマティやセリナたちも同様だろう。
その他の来賓の人たちも、教会の式場で待っているはずだ。
「タカシ殿。そろそろお時間でございます」
係の人からそう声が掛けられる。
いよいよ、結婚式が始まる。
控室から出て、式場の入口の前までやってきた。
「新郎の入場でございます!」
係の人がそう叫び、式場の扉を開く。
大音量で入場曲が演奏され始める。
俺は扉から式場の中に入る。
当たり前だが、知った顔がたくさんいる。
ミティの母親であるマティ。
カトレアと、その父親である村長。
餅屋のマイン、マーシー、フィル。
マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカ。
その他、村の中で何度か見かけた村人たちがいる。
俺は顔を知っているぐらいだが、ダディたちの知り合いなのだろう。
俺は式場の奥の祭壇まで歩いていく。
少しそこで待機する。
そして。
「新婦の入場でございます!」
係の人がそう叫ぶ。
ミティとダディが入ってくる。
バージンロードだ。
ミティとダディがこちらに歩いてくる。
「ふぁぁ……。きれい……」
「いいなー」
「すてき……」
来賓席のニム、アイリス、モニカがそう感嘆の声を漏らす。
セリナやレベッカも憧れるかのような目でミティを見ている。
また、その他の来賓の人たちからも感嘆の様子が伺える。
確かに今日のミティは美しい。
今までのどんなミティより美しい。
俺は、ミティと初めて会った日を思い出す。
俺がこの世界に転移してきた初日だ。
ファイティングドッグからミティと馬車を守るためにがんばった。
ミティはフードをかぶっていたので、そのときの女性がミティだと知ったのは後のことではあるが。
あのときは、ファイティングドッグを牽制するのが精一杯だった。
今では、ファイティングドッグドッグなど恐るに足りない。
まあほとんどチートのおかげではあるが。
少しは自力や度胸もついてきたように思う。
ミティと2回目に会ったのは、ラーグの街の奴隷商会だ。
そのときはお金がなかったのですぐに退散したが。
最後の別れ際に、ミティがニコッと笑ってくれたのが印象深かった。
今では奴隷という立場も解消し、対等な関係で人生を歩んでいくことになった。
ミティとダディが俺のすぐ近くまで来た。
ダディが口を開く。
「タカシ君。ミティのことを、よろしく頼むよ」
「わかりました。任せてください。幸せにします」
俺はダディの目を見て、力強くうなずく。
ダディが下がり、来賓席へと向かう。
俺とミティで、神官のほうを向く。
村の神官が口を開く。
「新郎タカシ。あなたはここにいるミティを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
「新婦ミティ。あなたはここにいるタカシを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います!」
俺とミティの誓いの言葉に、神官が満足気にうなずく。
「では、誓いの口づけを」
みんなの前で口づけか。
事前に聞いてはいたが、なかなかハードルが高い。
思い切ってやるしかない。
「ミティ。愛している。一生を添い遂げよう」
「私も愛しています。タカシさん。一生ついていきます」
ミティと見つめ合う。
唇を近づけ、キスをする。
ミティの唇の感触を堪能する。
口を離す。
キスの余韻に浸るかのように、再び見つめあう。
不意に、ミティがニコッと微笑んでくれた。
天使の微笑みだ。
またの名をエンジェルスマイルという。
この笑顔を守っていこう。
そう決意を新たにする。
俺は、来賓席のほうに体を向ける。
「皆さま。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。これから彼女と力を合わせて、幸せな家庭を築いていきます。どうか今後もよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします!」
俺とミティはそうまとめのあいさつを口にし、一礼をする。
来賓席のみんなから拍手がされた。
その後も、つつがなく結婚式が進行していく。
式は終わりに近づいてきた。
次はブーケトスだ。
新婦が花束を放り投げ、それを受け取ることに成功した人は、次に結婚できると言われているらしい。
特に俺からは日本の結婚式の風習などは伝えていないのだが。
似たような風習があるもんなんだな。
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