「俺の名は……高橋高志だ」

『タカハシタカシ……。タカハシタカシ……』

　ポセイドンの石像が繰り返す。

　高橋だからハイブリッジ。

　かつての俺は、そんな感じでハイブリッジという姓を名乗ることにした。

　我ながら安直なネーミングだったな。

　俺が過去を振り返っていると――石像から凄まじい威圧感が放たれた。

「うおっ！？」

　俺は思わず身構える。

　……いや、身構えても意味ないか。

『タカハシタカシ……』

　ポセイドンの石像が口を開く。

　そして――俺を睨みつけてきた。

『矮小ナル者ヨ……。ソノ名ノ通リ、身ニ余ル程ノ高キ志ヲ抱エシ者ヨ……。貴様ハ神ニ挑ミ、ソノ身ガ滅ブコトヲ恐レヌノカ？』

「挑むも何も、そっちから仕掛けてきたんじゃないか……。俺は別に死ぬつもりなんてない。神様が相手だろうがなんだろうが、愛する者たちのために俺は勝つ」

　ミティ、アイリス、モニカ。

　俺の子を生んでくれた、かけがえのないパートナーだ。

　ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ。

　将来的には子を生んでくれるだろう愛する妻たちだ。

　蓮華、レイン、ティーナ、ドラちゃん、ゆーちゃん、雪、月、花。

　共にヤマト連邦の任務に取り組んでくれる、大切な仲間たちだ。

　そして……他にも、数多くの仲間たちがいる。

　リン、ロロ、クリスティ、ナオミ、フレンダなどなど……。

　ハイブリッジ男爵領で俺の帰りを待ちつつ、しっかりと留守を守ってくれているはず。

　ベアトリクスとシュタイン。

　俺よりも先行してヤマト連邦に入り、任務に励んでいるだろう。

　そして……千。

　いろいろあったが、彼女のことも決して嫌いではない。

　ヤマト連邦に帰還したからにはまた何か動き出すだろうが、無理のない範囲でならできるだけ助けになってあげたい気持ちもある。

　俺は彼ら彼女らのためにも、死ぬわけにはいかない。

　ヤマト連邦での任務を完遂し、ゆくゆくは世界滅亡の危機を回避し、みんなでゆっくりと幸せな生活を送りたいのだ。

『タカハシタカシヨ……。貴様ノ決意ハ本物ダトイウコトダナ……』

「そりゃ、まぁな」

　愛する家族や仲間を守りたい。

　その気持ちは『身に余る高い志』なのだろうか？

　少なくとも、俺はそう思わない。

『ナラバ……我モ全霊ヲ持ッテ相手シヨウ！　タカハシタカシヨ！！』

「なに……？」

　ポセイドンの石像がそう言った瞬間、周囲に膨大な魔力が渦巻いた。

　そして、ポセイドンの石像が姿を変える。

「おいおい……」

　ポセイドンの石像が姿を変えた。

　それは、巨大な海蛇の姿だった。

　だが、ただの海蛇ではない。

　その全身には強大な魔力が漲っていた。

「アビス・サーペントに外見だけは似ているが……。力は比較にならないほど強いな。神様ってのは、やっぱりなんでもアリか……」

　俺は苦笑する。

　こんなん反則過ぎるだろ……。

『サァ、タカハシタカシヨ！　我ニ力ヲ示セ！！』

　ポセイドンが吠える。

　同時に、周囲に無数の魔法陣が浮かんだ。

「ちっ！」

　俺は剣を構えた。

　ポセイドンの石像が作り出した魔法陣から、無数の水塊が射出される。

　海中で水を発射なんて……と思われるかもしれないが、これはこれで有効な攻撃手段だ。

　魔力で固められた水の塊は、地上における大砲なんかよりも威力が高い。

　まともに食らえば、常人なんて一瞬でミンチにされるだろう。

　俺はそれを避けながら、ポセイドンの石像に接近する。

「はあああっ！！」

『ヌウンッ！！』

　俺の剣とポセイドンの石像の尾が衝突する。

　凄まじい衝撃波が周囲に広がった。

『オオオオッ！！』

「ぐあっ！？」

　俺は吹き飛ばされた。

　……やはり、依代とはいえ海神は強い。

　骨が折れそうな相手だ。