盗賊団の掃討作戦を終えた翌日。
俺たちは、ネルエラ陛下に謁見していた。
「ベアトリクスよ。此度の働き、大義であった」
「はっ! ありがたきお言葉です」
ベアトリクスが頭を下げる。
「ハイブリッジ男爵とソーマ騎士爵もな。よくぞ、ベアトリクスを手助けしてくれた」
「勿体なきお言葉でございます」
「光栄であります」
俺とシュタインは、深々と頭を下げた。
今回の一件は、俺たちの活躍あってのものだ。
そのことは、王にもしっかりと伝わったらしい。
「ところで、ベアトリクスよ。例の国への使節団だが、出発準備が整いつつあるようだな?」
「はい。滞りなく進んでおります。数日後には出発できるかと」
「そうか。あの千とかいう女を案内役に付ける。抜かりなく頼んだぞ」
「はっ!」
ベアトリクスが再度、頭を垂れる。
もうそんな時期か。
俺の叙爵式も終えたし、いつまでも王都に滞在している意味はあまりないが……。
ベアトリクスやシュタイン、それに千と離れ離れになると思うと、少し寂しいな。
「さて、隠密隊を率いるハイブリッジだが、準備は進んでいるか?」
「はっ! 俺も準備は進めております。ミリオンズを率いて、内情を探ってご覧に入れましょう」
俺は膝をついて、深く頭を下げた。
まあ準備と言っても、今のところはミリオンズのみんなと情報共有をする程度だが。
「うむ。ミリオンズは、黒狼団を容易く撃破し、スラム街の賊どもも蹴散らしたそうだからな。期待しているぞ」
「はっ!」
俺は元気よく返事をする。
実際、ミリオンズのみんなが手伝ってくれるのであれば、戦闘能力に一切の不安はない。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華。
この正メンバー10人だけでも、幅広い能力があり様々な状況に対して臨機応変に対応できる。
人外構成員のティーナとドラちゃんも役立つ。
さらには、メイドのレイン。
ミリオンズに正式に加入してもらうか悩んでいたのだが、黒狼団やスラム街の賊との戦いでもしっかり活躍してくれた。
俺以外では唯一の空間魔法使いだし、加入の方向で本格検討をしている。
筆頭護衛兵のキリヤも使いし、その妻ヴィルナも索敵能力においてはモニカやアイリスに並ぶレベルである。
御用達冒険者の雪月花も有能だ。
ラーグの街で留守番をしているセバス、ヒナ、クリスティあたりも十分に役立つ。
あまり大人数になっては隠密行動に問題が生じるので、どこまでの人員を連れて行くかの検討は必要だが。
戦力に不安がないことは確かだ。
心配があるとすれば、移動手段か。
「ハイブリッジに与える隠密小型船だがな。もうしばし待つがいい。オルフェスにて建造を急がせている最中だ。完成次第、貴様に与えよう」
「はっ! ありがたき幸せ」
ヤマト連邦は、サザリアナ王国の東に位置する島国だ。
鎖国中のヤマト連邦ではあるが、もしサザリアナ王国から上陸を試みるのであれば、王国の東側中部に位置するルクアージュが最も近い。
使節団のベアトリクスとシュタインは、ルクアージュから中型船を用いて出港する。
一方の俺たちは、サザリアナ王国の東側南部に位置する古都オルフェスから出発する。
やや遠回りになるが、国境を守るヤマト連邦の侍や忍者、力士たちに見つかる可能性を少しでも減らすためだ。
船も、大型船ではなく、魔道具を組み込んだ隠密小型船を建造中と聞いている。
それが完成する頃合いにオルフェスへ赴き、引き渡しを受ければ、いよいよ本格的にヤマト連邦へと旅立つことになる。
「完成まであと2、3か月といったところだ。それまでに、貴様に依頼したいことがあるのだが、構わないか?」
「何なりとお申し付けください」
ネルエラ陛下からの評価を稼ぐチャンスだ。
さすがに一国の王だけあり、彼から俺への忠義度は未だ10台。
加護(小)どころか、加護(微)すらまだまだ遠い。
だが、稼げるときに稼いでおいて損はないだろう。
加護の件は別としても、俺のさらなる陞爵に期待できる。
まあさすがに騎士爵から男爵に上げてもらった直後にまた陞爵はないと思うが、無事にヤマト連邦の件が片付いた後ならばワンチャンある。
その際の判断の一材料として、今のうちに功績を積み上げておくのは悪くない選択だろう。
「今回の件で、スラム街の賊どもは一掃された。だが、奴らを尋問したところ、王都の一般エリアに隠れ住む者がいることがわかったのだ」
「なるほど……」
一口に賊とは言っても、いろいろある。
スラム街に拠点を構える大型組織もあれば、一般の居住区域に潜む小型組織もあるということか。
黒狼団や白狼団が壊滅したあと、彼らはどういった行動をとってくるのか?
俺には予想できない。
「数年以上前から細々と活動していたようだ。違法賭博場の運営、邪魔者の奴隷堕ちの画策、保険金詐欺……。犯罪行為は多岐にわたる。そいつらを捕らえて一網打尽にするのが、貴様に頼みたいことだ」
「はっ! お任せ下さい」
俺は頭を下げた。
なかなか面倒な依頼だが、やらない選択肢はない。
どうせ、隠密小型船が完成するまでは暇なんだ。
ラーグの街の現状は気になるが、セバスやトリスタなど優秀な配下がしっかりと運営してくれている。
転移魔法陣により俺だけが一時帰還して、状況は把握済みだ。
「詳細はイリーナ、そして千に聞くがいい」
誓約の五騎士のイリーナはわかるとして、千?
彼女が小型組織に関係しているのか?
まあいい。
実際に聞いてみればわかることだ。
「ははっ! 承知致しました!!」
こうして、俺は新たな指令を受け取ったのであった。
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