代理国王に即位した俺は、まず戦争に勝つための策を考えた。
バルダイン王の自我を取り戻すことも重要だが……。
それ以前に、この国が負けることは許されないからだ。
サザリアナ王国は豊かな国だ。
それに、人族が治める諸国との関係性も良好らしい。
長期戦になると間違いなくこちらが不利。
そこで俺は、単身で敵国であるサザリアナ王国に乗り込むことにした。
「……ふむ。これが俺たちを押し込んでいた主力部隊か。大したことないな」
『タカシお兄ちゃん、すごいっ! カッコいいよっ!!』
マリアが俺を称賛してくれる。
単身で乗り込むつもりだったが、彼女もついてきてしまった。
まぁ、『祝福の姫巫女』である彼女の再生能力には凄まじいものがあるし、大丈夫か。
流れ矢に当たって死亡……などという事態にはならないだろう。
それに、彼女は俺の『加護』を得て諸々のスキルを強化している。
純粋に戦力として見ても、かなり頼りになる存在だ。
「おらおらっ! 止めれるもんなら止めてみな!!」
俺はサザリアナ王国の兵士たちを蹂躙する。
チートスキル『ステータス操作』によって、俺の戦闘能力は大幅に向上していた。
初期から伸ばしている『火魔法』。
次に伸ばし始めた『格闘術』。
ハーピィたちと共に行動しやすくするために伸ばした『重力魔法』。
バルダインの黒いモヤを取り除けないかと試行錯誤する中で取得した『治療魔法』。
祝福の姫巫女と呼ばれるマリアと仲を深めることで取得した『痛覚軽減』『HP回復速度強化』『自己治癒力強化』。
それらを駆使する俺はかなり強い。
もはや、少し強いぐらいの一般兵では相手にならないレベルだ。
「……ん? しかし、彼らはかなり強いな……。上級冒険者か?」
敵国の主力部隊の中に、2名だけ飛び抜けた実力を持つ者たちがいた。
いかにもチンピラ風だが、相当な手練れだ。
彼らは俺の火魔法や重力魔法に抵抗しつつ、その肉体や大剣で俺に攻撃を仕掛けてくる。
「やるな……。人族でこのレベルとは……」
『タカシお兄ちゃん! そんな奴ら、早くやっつけちゃって!!』
マリアが叫ぶ。
以前の彼女は、とても心優しい性格だった。
侵略者である俺を助命してくれたほどだ。
しかし、徐々に好戦的になっているように思う。
本人に自覚はないが、彼女の目もバルダインと同じ黒いモヤに覆われつつあった。
そして、他ではない俺も……。
「ひゃっはー! 汚物は消毒だぜ!! 【蒼之炎(ブルーバード)】ぉ!!!」
俺は最上級のオリジナル火魔法を発動する。
蒼い炎が2人の冒険者を襲った。
本来の彼らであれば、それを避けることもできただろう。
だが、今の彼らは全力を出せていなかった。
詳しい事情は知らない。
知る必要もない。
「悪く思うな。これは戦争だからな」
2人の冒険者はその場に崩れ落ちる。
その身体は青い炎に包まれ燃え盛っていた。
「よし、これで敵の主力部隊は壊滅したな」
俺は周囲を見渡す。
サザリアナ王国の兵士や冒険者は、ほとんどが地面に倒れ伏していた。
もう、立ち上がる気力もないだろう。
「……この服装は神官か? そう言えば、かつてガルハード杯に出場したときにも見かけたな」
俺は地面に横たわる男に視線を向ける。
たしか、『武闘神官』とか呼ばれていたはずだ。
彼以外にも少女の神官がいたような気がするが……今はいない。
この数か月の戦争で、戦死したのだろう。
あるいは、戦火を逃れるために国を離れたのかもしれない。
「俺の国には神官がいないからな……。バルダイン王を正気に戻すため、何らかのヒントを得られるかもしれん。捕虜として連れて行くか」
俺は『武闘神官』の男を重力魔法で浮かせる。
彼は俺に対して強い憎悪の視線を向けてきた。
……この様子だと、彼の仲間や知人がこの戦争で命を落としたのだろう。
例の少女もおそらくは……。
俺は同情の念を抱く。
だが、もう止まれない。
国を守りつつバルダインの目を覚まさせるためには、手段を選んでいる余裕などないのだ。
「帰ろう、マリア」
『うんっ!』
俺はマリアと手を繋ぎ、重力魔法で上空に浮かぶ。
そして、仲良く王城へと帰還したのだった。
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