「へへ……。逃げ場はねぇぜ?」
「いやぁああ! こっちに来ないでっ!!」
私は悲鳴を上げた。
目の前にいるのは、ダダダ団の怖い人だ。
「くっくっく。魔導技師ムウだか何だか知らねえが、こうなってしまえば終わりだ。おとなしくしな!」
「い、嫌です! 助けて! 誰か!!」
私はこれでも、魔導技師としてそれなりに有名だった。
一回あたりの仕事料もたくさんもらえる。
だけど、経営の才能はなかったみたい。
設備にお金を使いすぎて、借金まみれになってしまった。
そして、ダダダ団に捕まってしまったのだ。
「へっへっへっ。観念するんだな」
「いやっ! ……んぐっ!?」
私の顔に布を押し付けられた。
いやだ。
このままだと、奴隷にされてしまう。
いや、合法的な奴隷ならまだマシだ。
この国は、ちゃんと奴隷の権利を認めているから。
問題は非合法の奴隷だ。
彼らは人権を奪われて、強制労働に従事させられる。
過酷な労働環境で働かされるのだ。
しかも、賃金は一切支払われない。
つまり、一生奴隷のままで終わることになる。
「……んっ!? むぐうぅ!!」
必死に抵抗するけどダメだ。
手足を縛られてしまった。
口にも猿ぐつわがされている。
私は魔導技師の仕事に夢中で、女としての魅力は皆無だ。
だから、男に迫られた経験なんてない。
初めて男の人に触られるのが、こんな風に乱暴な扱いだなんて……。
「んんんーーー!!!」
私は必死に叫ぶ。
性的に手を出されるぐらいなら、魔道具関係の仕事を押し付けられた方がはるかにマシだ。
実際、ダダダ団の頭領や幹部もそんな話をしていたような……。
(あれ? 私って、ダダダ団に捕まったままだっけ……?)
誰かに助けてもらったような気もする。
それで、納期が逼迫している造船作業に取り組んでいたような……。
都合の良い夢でも見ていたのかな……。
「くっくっく……。大人しくなったじゃねえか」
「……」
「それじゃ、早速始めさせてもらおうか」
「ひっ……! いやぁ……!!」
こっちが現実なのかな……。
怖い。
怖すぎるよぉ……。
「――そこまでだ! 悪党め!!」
「えっ……?」
「な、なんだお前は……?」
突然、部屋の扉が開かれた。
そこに立っていたのは、黒いローブを纏った謎の人物だ。
顔も隠していて見えない。
ただ、声からして男性のように思える。
「貴様らのような悪逆非道の輩は許せない! 成敗してくれる!!」
「ふざけるな!! こいつは借金のカタだぜ! 正義はこっちにある!! やれっ!! やっちまえっ!!」
「「「おおおっ!」」」
侵入者を迎え撃つダダダ団の男たち。
でも、黒いローブの人は強かった。
「な、なんなんだコイツは……?」
「ひぃいいいっ! ば、化け物だ……」
「に、逃げるな!! 全員で戦えば――うぎゃあーーーっ!!」
彼はあっという間にダダダ団の男たち全員を倒してしまった。
すごい。
こんなに強い人がいるなんて……。
「ふっ。他愛もない」
「あ、あの……」
「お怪我はありませんか? 囚われのお姫様」
彼は私の縄を解きながら、優しく声を掛けてくれた。
まるでおとぎ話の王子様だ。
私は思わず泣き出してしまう。
「うううっ……。怖かったです~!!」
「もう大丈夫ですよ。俺が守ってあげますからね」
「はいぃ……」
「唐突ですが、俺の正体は貴族でしてね。あなたを助けるためだけにここへ来たのです」
「へ? ……はい?」
私は首を傾げた。
いくら何でも急すぎる。
え?
貴族様が、ダダダ団のアジトに単身で乗り込んできたの?
それも、私を助けるために……?
「あなたを俺の妻に迎えたいと思っています。いかがでしょうか?」
「……は、はい! 喜んでっ!!」
「良かった。では、さっそく愛の契りを結びましょう」
「はい……って、ダメです! そんな、いきなり……」
「いいじゃないですか。俺、ずっとあなたのことを好きだったんですよ」
「え……? でも、私たちは初対面で……」
おかしい。
私に都合が良すぎる。
まさか、これも夢……?
「細かいことはいいじゃありませんか。愛の前では、時間など無意味ですよ」
「はわわ……。でも……」
貴族様が顔を近づけてくる。
カッコいい……。
このままだと流されちゃう……。
「俺はもう我慢できません。いきますよ」
「ええっ!?」
貴族様が私に覆いかぶさってきた。
そして――
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