【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1713話 美帝の旅路

公開日時: 2025年4月10日(木) 12:10
文字数:1,023

「……この地では、私の名は“美帝(みてい)”です。その名に恥じぬ武功を知らしめましょう。そうすれば、いずれタカシ様とも合流できるはず……」


 その呟きは誰の耳にも届かぬまま、音もなく静かに消えていった。

 言葉の一つ一つに込められたのは、願いと決意。

 そして、一抹の寂しさ。

 誰にも聞かれない言葉だからこそ、自らに言い聞かせるように口にするのだった。

 

 その足が、地を確かに踏みしめるように一歩を刻む。

 小柄な体躯が、山道を踏み割るように進み出した。


 彼女がこの地に来た理由は二つ。


 一つ目は、仲間たち――特に、タカシとの再会を果たすため。

 中煌地方の暁紅藩から、ここ死牙藩まで、ミティはひたすら歩いてきた。

 地図で見れば隣接しているとはいえ、その間には険しい山脈が広がり、霧深い谷間や、道なき斜面も多い。

 だが、彼女はそれを選んだ。

 ただ一箇所にじっとしていては、奇跡は起きない。

 動き続けること、それが再会の可能性を引き寄せる。


「タカシ様も……どこかで、私を探してくださっているでしょうか」


 自嘲とも憧れともつかぬ小さな呟きが、彼女の唇をかすめる。

 魔導具『共鳴水晶』が不調で、思うように合流ができていない現状。

 美帝の名を高めることで、タカシの耳に自らの所在を伝える――そういった目論見もあった。


 そして、もう一つの理由。

 それは修行だ。

 彼女は力をさらに鍛え、極めようとしていた。


 この大和の地において、各藩はそれぞれ独自の風土と文化を持っている。

 中でも死牙藩は、凶悪な妖獣が棲むことで知られていた。

 血に飢え、炎を吐き、地を裂く者たち。

 彼女が求めていたのは、まさにそういう敵だった。

 対人戦では鍛えきれぬフルパワーでの戦闘勘を、野生の妖獣との交戦で磨く。

 それを実行するのに、これ以上の地はなかった。


「さて……。はるばるここまでやって来たのですから、期待外れではないといいのですが……」


 空を見上げ、吐き出すように言う。

 暁紅藩から白夜湖に至る道中でも、思いがけず多くの妖獣に遭遇し、その度に足止めされた。

 だが、それもまた鍛錬。

 あるいは、誰かの目に留まる機会になったのなら、決して無駄ではない。

 現地の土木作業を手伝ったのも、ただの親切心だけではなかった。

 力を見せるということは、言葉より雄弁な名刺なのだ。


「むっ……?」


 突然、風がざわめき、白夜湖の湖面がさざ波を立てた。

 その水面が揺れる向こう側に、黒い影が浮かび上がる。

 まるで、深淵から現れた幻のように、ゆっくりと、しかし確かな存在感を伴って。

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