【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1768話 大将軍

公開日時: 2025年6月19日(木) 12:10
文字数:2,069

「どれどれ……」


 俺は蜜氷屋に近付いていく。

 元々はあった行列の後ろから前に行くだけだ。

 それほどの距離はないし、時間もかからない。


(待てよ? 上から登場した方がカッコいいか)


 その一瞬の思いつきが、体の奥から湧き上がる熱と結びついた。

 俺はくるりと踵を返し、蜜氷屋の向かいにある建物の壁を蹴って駆け上がった。

 足の裏に伝わる振動、重力魔法を僅かに噛ませ、身体を軽やかに浮かせる。


 屋根の端を掴み、ひねりながら飛び乗る。

 着地すると同時に、瓦がバキンと乾いた悲鳴を上げた。

 だがそれもまた、俺の存在を際立たせる演出の一部にすぎない。


 その音を皮切りに、店員や客たちの視線がいっせいに跳ね上がった。

 空を裂くように、いくつもの声が俺の名を呼んだ。


「あ、あなたは……高橋様!」

「大将軍・高橋高志!!」

「ああ……高橋さん!」

「来てくださると信じていました……!!」


 その声音には、驚きと、安堵と、畏敬が混じっていた。

 賊から逃げ惑っていた群衆が徐々に足を止め、次々と顔を上げていく。

 誰もが、太陽の逆光の中に立つ俺を見上げていた。

 彼らの額には汗が滲み、それでもその目にはわずかに希望の光が宿っていた。

 まるで、その光景だけで救われるとでもいうように


「ん? ……あ?」

「なんだってんだ?」


 賊どもは刃物を手にしたまま、互いに顔を見合わせている。

 戸惑いがその目に浮かび、眉が引きつる。

 状況を理解しきれていないのだろう。

 無理もない。

 蜜氷屋を襲撃していたらいきなり将軍が降臨するなど、思いもよらないはずだ。

 しかし、民衆は違った。


「大将軍!」

「大将軍!!」

「大将軍!!!」


 その声は熱狂となって地を揺らし、壁を震わせ、屋根瓦さえも小刻みに揺らした。

 雲すら撓ませるほどの勢いで、感情の波が押し寄せる。

 その濁流に押され、賊の一人が背筋をすくませたように身をすくめる。


「将軍……だと? ま、まさか……」

「大桜花藩を支配する、例の……!?」


 賊どもがようやく、俺の正体に勘づいたらしい。

 しかしもう遅い。

 俺は既に、蜜氷屋の向かいの建物の上から賊たちを視界に収めている。

 視線を動かすだけで、敵の配置や動きが手に取るようにわかる。

 彼らに逃れる術はない。


(ここで民衆受けの良さそうな台詞でも言ってみるか? いや、ここは……)


 ちらりと心をよぎる誘惑。

 しかし、それを打ち消すのは冷静な計算だった。


 民衆の前での言動ひとつが、今後の統治に影響を及ぼす。

 安易なご機嫌取りをする将軍と見なされれば、今後の統治に支障が出るかもしれない。

 下手に親しみを持たれるのは避けるべきだ。


 俺はただの飾りではない。

 力で導き、秩序をもたらす者。

 それを知らしめておく必要がある。


「黙れ愚衆ども! 俺はそこの賊どもを潰しに来ただけだ!! お前らのためじゃねぇ!!!」


 雷鳴のような怒声が空気を裂いた。

 熱気に包まれた街並みに響き渡り、屋台の旗が一斉に翻る。

 旗の布がばさりと風を受ける音すら、俺の威圧の余波に感じられるほどだった。


 ま、半分は本当だ。

 ここにいる特定人物を助けに来たわけではない。

 あくまで、城下町の治安を適度に維持し、藩力を高めたり民衆に加護(微)を付与したりするのが目的だ。


 俺の目に映るのは個人ではなく、集団。

 つまり「民」という曖昧で大きな存在。

 俺が守るのは個々の命ではなく、藩という構造体そのものだ。


「格好良い……」

「口ではそう言うが、あんたはいつも俺たちを救ってくれるんだ!!」

「大将軍様、万歳!!」


 あちこちから声が上がる。

 息を呑んでいた群衆の中に、熱が灯った。

 あれよあれよという間に、その熱は歓喜の炎となり広がっていく。


 圧倒的な力を前に、人々は恐れとともに畏敬を抱く。

 その感情が、やがて信仰へと変わる瞬間。

 俺がその象徴となるのは、もはや自然の流れだ。

 今の俺なら、何をやっても好意的に受け取ってくれるのかもしれない。


「桜花藩の守護神!!」

「大将軍!!」

「高橋高志様!」

「桜の王! 高橋高志!!」


 ……なんだ、守護神とか桜の王って。

 誰がそんな二つ名を用意した?

 少なくとも、俺は自称していないぞ。


 だが――悪くはない。

 そう悪くない響きだ。

 否定する理由も、今のところ見当たらない。


「フハハハ……。まぁ、好きに呼べば良いさ」


 俺は小さく笑う。

 誇張された称号も、民の信仰という形を持てば、利用価値が生まれる。

 現時点でも、加護(微)の条件を満たして自動付与された者はそれなりに多いはずだ。


 一方で、加護(小)はどうか?

 こちらは自動付与ではなく、俺が一人ずつ忠義度を確認する必要がある。

 正直、かなりの手間だ。

 この勢いなら誰かしらが加護(小)の条件を満たしている可能性は充分にあると思うが、今すぐに一人ひとりの忠義度を確認するのは現実的ではない。

 このあたりは後で考えよう。

 

「さて、賊ども。覚悟は良いな?」


 俺は笑みを浮かべる。

 声は低く、しかし確実に彼らの心臓を鷲掴みにしたはずだ。

 俺の一声がまるで断罪の鐘のように鳴り響くと、群衆がそれに呼応するように「うおおおお!!」と雄叫びを上げた。

 熱気と歓声の渦が一気に広がり、空気を完全に支配する。

 あとは賊どもをぶっ潰すだけだ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート