「ははっ！　さぁ、次が本当の仕上げだ！！」

　桜の花びらが城下町を舞う中、俺は魔力を練り上げる。

　妖術に比べれば、魔法は得意とするところだ。

　魔力強化やＭＰ強化のスキルも持っているしな。

　まぁ、今から発動する魔法そのもののスキルレベルは低めなので、あまり大型の攻撃魔法とかはできないのだが……。

「月影に揺らめく千の花弁よ、夜風に溶けゆく桜の息吹よ。闇を彩り、儚き夢を描け――【夜桜散華】」

　俺の魔力に応じて、周囲に闇のオーラが発生する。

　それは既に舞っている花びらと絡み合うように、城下町に広がっていく。

　そして……

「な、何だこれは！？」

「花びらが光っている……？」

「違う！　桜の周囲が暗くなっているんだ。鮮やかな桜と闇の対比が、美しくも恐ろしい……！！」

「まるで夜桜だ……。こ、こんな妖術は見たことがない……」

　桜花の民衆は、美しい花びらと妖しく揺らめく闇の対比に見とれている。

　作戦成功だ。

　名付けて、『夜桜散華の大作戦』といったところか。

「はははは！　とくと堪能しろ！　目の前の光景をな！！」

　改めて、今の状況を整理してみよう。

　まず、桜花城内部は俺が多数の侍を撃破したことにより機能停止状態だ。

　特に、上層階はほぼ壊滅状態と言っていい。

　天守閣の屋根の上には、俺が堂々と立っている。

　近くには、重力魔法によって宙に浮かされた藩主――いや、元藩主の桜花景春。

　その両隣に、彼の双子の妹たち。

　周囲には桜花七侍の面々。

　俺の戦闘能力に、疑われる余地はない。

　桜花城周辺の空には、舞い散る無数の桜の花びら。

　俺が血統妖術を使えることは、藩主としての正当性をいくらか補強しているはずだ。

　仕上げに、花びらの周囲に絡み合う闇のオーラ。

　単なる強さだけではなく、単なる美しさだけでもなく、得体の知れない妖しさを感じさせていることだろう。

「おい……お前たち、ちゃんと見たな？　はははははっ！」

　俺はテンションが上がり、ついつい笑ってしまう。

　ここ最近で悪政を連発し、さらには紅葉たちの誘拐まで行った桜花景春とその配下たち。

　それを撃破して桜花藩を引き継いだ俺は、まさに正義の味方と言えるだろう。

　しかも、証拠は誰もが確認できるような形で提示した。

　民衆たちは俺の言うことを信じるしかない。

「他の町にも、よぉく伝えとけ！　停滞を甘んじて受け入れるつまらねぇ庶民ども！　悪法にすら粛々と従う文官！　弱い侍！　そして……各地に巣食う盗賊たちよ！　この藩の未来は決まった……！　はははははっ！　そう……ここから先は！！」

　俺のテンションはついにマックスになる。

　そして、大きく息を吸い込んで叫んだ。

「俺の！！　時代だぁ！！！」