「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うおおお!!」
ナオンとナオミ。
2人が同時に動いた。
「せぇいやああ!」
「ふんぬぅぅぅ!」
激しい打ち合いが続く。
どちらも一歩も引かない攻防だ。
「くっ……。流石に強いですね」
「ふふふ……。当たり前だ。貴様が『飛竜の型』を使えたのは驚きだが、所詮はそこまで。地力の差を痛感したか?」
ナオンの言葉に、ナオミの顔が歪む。
「次でトドメだ。はああぁ……!」
「アタシだって……! はああぁ!」
2人が大きく闘気を練り上げる。
「【亜空斬撃】!!!」
「【飛竜・爆砕波】!!!」
凄まじい剣技と闘気弾がぶつかり合う。
辺りに土煙が舞い上がった。
やがて、徐々に視界が晴れてくる。
「はぁはぁ……。私の勝ちのようだな……」
「姉様……」
ナオミが仰向けに倒れていた。
ナオミの剣は折れており、ナオンの頬には小さな切り傷がある。
「アタシの負けだよ……。やっぱり姉様は強いや……。敵わないなぁ……」
「……そんなことはない。貴様の実力は本物だった。騎士団の厳しい鍛錬に音を上げず、閣下に才能を見出されただけはある。素晴らしい一撃だった」
ナオンは剣を鞘にしまう。
そして、倒れているナオミの方に歩いていく。
「お前は可愛い妹だ。危ない仕事をしてほしくなくて、頑張って突き放してきた。しかし、要らん心配だったようだな」
ナオンが倒れている妹に手を差し出す。
「姉様ぁ……」
「ナオミ……」
姉妹が見つめ合う。
俺は思わず目を潤ませた。
感動的なシーンじゃないか。
これで一件落着だな。
よかったよかった。
「素晴らしい試合だったぞ」
俺が拍手をしながら近寄っていくと、ナオミとナオンがこちらに顔を向けた。
「ありがとうございます」
「……感謝します」
ナオミとナオンが頭を下げる。
「今、傷を治してやろう。――【ヒール】」
俺は2人に治療魔法をかけた。
「おぉ! 痛みが消えました! ありがとうございます!」
「相変わらず、ハイブリッジ様の治療魔法はすごいです!」
2人共、元気になったようだな。
「――それで、だ。ナオミちゃんの実力は分かっただろう? ナオンの治安維持隊に入れようと思うんだが、どうだ?」
「これほどの実力を見せられては、反対はできませんな。私と5人の部下にナオミを加えて、7人でこの街の治安を守っていきましょうとも」
「そうか、それは良かった」
とりあえず、これで一段落かな。
王都から連れてきた者たちの中で、まずはナオミの配属先が無事に決まった感じだ。
「じゃあ、今後もよろしく頼むぞ。俺はこのあたりで失礼し――」
俺がさっそうと立ち去ろうとした時だった。
「お待ち下さい! 閣下!!」
ナオンが俺を呼び止めた。
「ん? なんだ? 他に何か問題でもあったか?」
「いえ、そういうわけではありませんが。ナオミの急成長のことです」
「うむ。それは元々持っていた基礎力に、俺という刺激剤が加わることで開花したんだ」
「そういう話でございましたね。ですが、基礎力で言えば私も負けてはいないつもりです」
ナオンがそう力説する。
彼女は『亜空斬撃』という大技こそ持っているものの、その戦闘能力を支えているのはしっかりとした基礎力だ。
言っていることはその通りなのだが、何の話をしたいのかイマイチ分からないな。
「うむ。それで?」
「どうか私にも指導をしていただけないでしょうか? 試合には勝ちましたが、『飛竜の型』は私もまだ安定して使えない技なのです。このままでは、姉としての面目が立ちません。どうか私に、指導してください」
「いやいや、そんなことを気にしなくてもいいって。というか、指導ならたまにやっているじゃないか」
ナオンを雇用してからというもの、時間が合えば模擬試合や鍛錬の監督などを行なってきた。
ついさっきも、模擬試合をしていたし。
「ご指導にはいつも感謝しております。ただ、もう一歩踏み込んだ特別なご指導があるのではございませんか?」
「特別な指導?」
「はい! 閣下が見出されてきた者たちは、一足飛びに成長している者が多いです。そんな中、治安維持隊の私たちは取り残されているようで不安なのです。私たちが知らない特別な指導があるのではと思っています」
ナオンがそんな不安を抱いていたとはな。
確かに、ナオンを除く多くの者がその才能を開花させている。
セバス、キリヤ、クリスティ、ネスター、ロロ、リンなどなど……。
彼らは全員、俺の加護(小)の条件を満たしている。
ナオン、王都組、採掘場組以外で加護(小)を未付与である配下は……。
オリビアとクルミナくらいか。
冒険者のトミーやアランもまだだが、彼らは現時点では御用達冒険者であり、配下ではないしな。
「ふぅむ……」
俺は言葉に詰まる。
特別な指導など、ない。
強いて言えば、俺と仲良くなるイベントをこなすことが特別な指導とも言えるが。
加護(小)の条件を満たせるか否か。
その差が大きい。
「わ、私ではまだ閣下の信を得られるような働きができておりませんか?」
ナオンが目に涙を浮かべながら訴えてくる。
彼女の必死さが伝わってきた。
ここで断るのは可哀想だな……。
「よし、分かった。特別に指導をしてやる。ただし、条件がある」
「条件ですか!? どのような条件でも仰せのままにいたします!」
「途中でのリタイアは認めないし、俺に抵抗することも認めない。そして、特別な指導にはナオミちゃんにも同席してもらう」
「はっ! 承知いたしました!」
ナオンが背筋を伸ばして敬礼する。
満足げな表情だ。
それとは対称的に、妹のナオミは顔をこわばらせている。
「……えっ!? ま、まさかハイブリッジ様は……」
「ナオミちゃん。君も通った道だ。強力してくれるな?」
「で、でも……。姉様はそういった方面に疎くて……」
「大丈夫さ。俺に任せておけ。上手くいったら、ナオミちゃんにもまたやってあげるからな」
「は、はうぅ……」
ナオミが顔を真っ赤にして俯く。
姉妹だし、たぶん同じようなやり方でいけるだろう。
弱いところも同じだったらやりやすいのだが。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
俺はナオミとナオンを連れて、屋敷に戻り始めたのだった。
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