「さて、2階への討ち入りを果たしたわけだが……。紅葉たちはどこだ? 最上階にいるであろう景春に聞けば確実か?」
俺は桜花城の2階を突き進む。
以前に侵入したときは、1階を探索できただけだった。
2階より上は未知のエリア。
とはいえ、何も情報がないわけではない。
「諜報活動で得た情報通りだ。まるで迷路だな……」
利便性を重視するなら、階段は同じ場所に設けられる。
1階から2階に上がったあと、そのまま続けて2階から3階に上がれるような配置だな。
しかし、この桜花城はそうなっていない。
2階から3階へ行くには、1階から2階へ上がるための階段とはまた別の場所にある階段を用いる必要がある。
なぜこのようになっているのか?
それは、ここが『城』だからだ。
外敵から藩主を守るために強固な城壁を持つのはもちろんのこと、いざ侵入されたときにも時間稼ぎができるように、あえて複雑な作りになっているのだ。
「まぁいい。俺は俺の目的を果たすだけだ。幸い、侍どもの対応は遅い」
俺は引き続き3階を駆けていく。
はるか後方から、『曲者だ!』とか『であえ、であえ!』といった声が聞こえてくる。
だが、俺の速度に追いつけてない。
背後からの侍は、今のところ脅威ではないな。
もちろん、背後だけではなく前方にも侍はいる。
だが、俺とのすれ違いざまにかろうじて刀を構えるのがやっとだ。
正面から臨戦態勢で俺と対峙できる侍は、今のところいない。
大声での『曲者だ!』という情報共有だけでは、この程度の対応が限界なのだろう。
「さて、事前に集めていた情報によると、このあたりに3階への階段があるはず。……ああ、あそこか?」
俺が2階で行動を始めてから、1~2分ぐらい経過しただろうか?
やっと3階へ上がれそうなところを見つけた。
天井がなく3階まで吹き抜けになっているエリアだ。
しかし、肝心の階段は見当たらない。
「ここではなかったか? ……いや、3階に可動式のハシゴが見えるな。移動の必要があるときは、3階側からハシゴを下ろしてもらう仕組みか。そして、予期せぬ侵入者を阻むため、普段はハシゴを3階側に収納していると……」
俺はそう分析する。
やはり、藩主がいる城だけあって、手の込んだ仕掛けがなされている。
何らかの突発的な事象によって城内は混乱気味のようだったが、こういった物理的な仕組みだけは平常通りに作用しているらしい。
「まぁいい。この程度の高さ、俺には関係ない」
俺は足に闘気を込める。
桜花藩の一帯、とりわけ桜花城の周辺には特殊な結界が張られている。
重力魔法の制御が不安定となるため、自由自在な飛行は難しい。
だが、2階から3階にジャンプするぐらいならば問題ない。
「はっ!」
俺は軽く飛び上がる。
3階の床に、スタッと着地した。
「さてさて、3階への討ち入りだ。2階は相当な騒ぎになっているようだが……3階はどうかな? 対応が追いついていないうちに、最上階までガンガン進みたいところだが……」
ここからが本番だろう。
警備を担う侍の質や配置密度も、2階までとは段違いのはず。
俺は気を引き締める。
紅葉たちを救出するために、俺は何としても桜花景春をボコボコにしないとならないのだ。
「行くぞ……!」
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