「ふむ、今日は雨か……」
俺は宿屋から外を眺める。
土砂降りというほどではないが、結構な勢いで雨が降っていた。
「高志様、本日はどのようにお過ごしになられますか?」
「たまにはゆっくりしてもいいんじゃねぇか? 兄貴!」
紅葉と流華が尋ねてくる。
俺は城下町に来てからも、休むことなく動き続けている。
桜花藩に関する情報の収集、桜花七侍を筆頭とする戦力の把握、桜花城を攻め落とす作戦の立案、協力者探し、鍛錬による自身の強化などなど……。
とにかく、やらなければならないことはたくさんある。
優先度が高いのは情報収集だが、『鍛錬による自身の強化』もバカに出来ない。
俺は『ステータス操作』のチートによって、すでにかなりの戦闘能力を持つ。
しかし、『俺がこれまでに拠点としていた場所の戦闘技術体系』と『このあたりの地域の戦闘技術体系』は、どうやら少しばかり異なっているようだ。
闘気らしきものを操る侍の存在は確認したし、魔法についても使用者が皆無というわけではない。
一方で、『妖術』という謎の戦闘技術もあるし、独自の剣術体系もあるようなのだ。
そのあたりを吸収していけば、俺はもっと強くなれるだろう。
桜花七侍などへの勝率が高まり、ひいては桜花城を落城させられる確率も上がるはずだ。
「これぐらいの雨なら大丈夫さ。道場での鍛錬には影響しないよ」
「さようでございますか。それでは、私たちはいつも通りに……」
「ちゃんと自主鍛錬しておくぜ!」
「ああ、よろしく頼む」
俺は頷く。
紅葉と流華の2人には、宿屋の部屋で自主鍛錬を続けてもらっている。
彼女たちの成長速度を向上させることだけに集中するなら、『広い屋外で俺が付きっきりの指導を行う』というのもアリだ。
しかし、前述の通り俺にはやるべきことがたくさんある。
そのため、申し訳ないが付きっきりの指導はできない。
また、桜花藩は藩主の桜花景春の増税政策により、経済的に苦しい状況にある。
この状況で紅葉と流華の2人だけで屋外鍛錬をしてもらうのは、ちょっと不安だ。
そこで、宿屋の一室での自主鍛錬を続けてもらっているのである。
紅葉も流華も、俺が保護する前までは満足に食べていなかった。
それに、流華の右手はまだ治療の途中だ。
療養がてら宿屋で留守番してもらうのも、決して愚策ではないだろう。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、高志様」
「兄貴! いってらー!」
2人の見送りを受けて、俺は宿屋を後にする。
そして、雨の中、桔梗の待つ武神流道場へ歩き出すのだった。
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