キメラの件があった翌日になった。
昨日は、ある程度大きなケガをしている人だけを治療しておいた。
そして、俺たちミリオンズやウォルフ村の戦士たちは、街の宿屋に泊まった。
今日は、俺とアイリスで残りの治療を手伝っていく予定である。
ユナ、ミティ、モニカ、ニムは別行動だ。
彼女たちは街の復旧作業を手伝う。
ドレッドとジークも同じく復旧作業を手伝う。
シトニとクトナ、それにウォルフ村の戦士たちは、状況の報告のためにウォルフ村に帰っていった。
「さて、治療していくか」
「そうだね。ボクもがんばるよ」
さっそく、俺とアイリスで街のケガ人を治療していく。
まずは領軍の兵士たちだ。
俺たちとの戦闘や、キメラとの戦闘によって負傷した人がたくさんいる。
「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」
俺は初級の治療魔法を発動する。
ケガ人とはいっても、軽傷の人が多い。
自然治癒でもそのうち治るぐらいのものだ。
「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」
アイリスも、俺から少し離れたところで順番に治療魔法をかけている。
しばらくして、俺とアイリスは数人ずつの治療を終えた。
一度彼女と合流する。
「ふう。なかなか人数が多いな。時間がかかりそうだ」
最初は兵士たちを治療していた。
噂を聞きつけたのか、いつの間にか民間人も並んでいた。
まあもちろん、ケガ人を差別したりはしないが。
人数が増えて、なかなか終わりそうにない。
「そうだねー。エリアヒールの合同魔法を試してみようよ。せっかくだし」
アイリスがそう言う。
同系統の属性の魔法は、複数人で息を合わせることにより効力を増幅させることができる。
かつて、サザリアナ王国の男爵家の娘であるサリエを治療を試みたときは、上級治療魔法のリカバリーでもまだ完治はできなかった。
そこで使用したのが、リカバリー同士の合同魔法だ。
これにより、サリエの病を完治させることができた。
そういえば、サリエのその後の容態も少し気になるな。
おそらくは問題ないとは思うが。
治療したのは、1か月半ほど前のことだ。
この1か月半で、体力なども戻っているかもしれない。
この街やウォルフ村での用事がひと段落したら、またサリエの様子を見に行ってみようかな。
……おっと。
話がそれたな。
「エリアヒールの合同魔法か。確かに、練習にはいい機会だな。一刻を争う重傷の人はいないようだし、万が一失敗しても問題ないしな」
「うん。もちろん、成功させるつもりではいるけどね」
俺とアイリス。
2人で、息を合わせて治療魔法の詠唱を開始する。
「「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」」
周囲に大きな優しい光が発生する。
成功だ。
俺たち2人の息の合った合同魔法が発動した。
「こ、これは……」
「痛く……ない。治療魔法だ!」
「あの人たちがかけてくれたようだぞ。確か、冒険者のタカシさんとアイリスさんだ!」
兵士や民間人たちが俺たちを見て、そう言う。
ふふふ。
俺たちも有名になったものだな。
「タカシ? 初めて聞く名前だ」
「紅剣のタカシさんを知らねえのか。期待の新星だぜ!」
「貢献か。確かに、街の平和に貢献してくれているものな!」
「いや、その貢献じゃない。くれないの剣と書いて、紅剣だ」
「俺は見たぜ! でっかい怪物を、あの紅い剣で鋭く斬りつけているのをな!」
「うおおおお! 紅剣! 紅剣!」
兵士や民間人たちから、コールが巻き起こる。
少し照れくさいが、うれしい気持ちもある。
俺は手を振って声援に応える。
「ふーん。いいなあ、タカシ。ボクもがんばったのに」
「そうだなあ。やっぱり、特別表彰者でもともと顔が売れているからかな?」
「そうだろうねえ。ボクも、もっとがんばらないとな」
「……いや、待て。みんなの声をよく聞いてみろ」
兵士や民間人たちからのコールは、俺に対してのものだけではない。
「女性のほうは、アイリスさんか。あまり聞いたことのない名前だな」
「なんでも中央大陸から来た武闘神官とやらの見習いらしい。各地で困っている人を助けて回っているとか」
「なんじゃそりゃ!? すげえな。聖女さまかよ」
「それに、武闘の実力もすげえぜ。あの怪物を素手で殴り飛ばしていた。それに、何でもオウキ隊長との勝負に勝ったとか」
「マジかよ。武闘に優れた聖女。武闘聖女か」
「武闘聖女さま!」
「聖女さまー!」
兵士や民間人たちがアイリスをそう呼ぶ。
「聖女さま? いいえ、通りすがりの武闘神官見習いです」
アイリスがそう言って、照れくさそうに顔を隠す。
「どうしたんだ? いいじゃないか、聖女で」
「うーん。聖女は、聖ミリアリア統一教の認定がないと名乗りにくいんだよ。もちろん、宗派外の人が勝手にそう呼ぶのを止めたりはしないけど……。なんとなく照れくさい」
アイリスがそう言う。
聖女という肩書には、何やら特別な意味があるようだ。
その後も、俺とアイリスで治療回りを行っていった。
兵士や民間人たちにも、感謝してもらえたと思う。
彼らの忠義度もそれなりに上がっていた。
こういう社会貢献でも、忠義度は広く浅く稼ぐことができる。
加護付与には忠義度50が必要なので、どちらかといえば狭く深く稼ぎたいところではあるが。
今回の件も決して無駄とはならないだろう。
こういう日々の積み重ねが大切なのだ。
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次の日になった。
治療回りは昨日である程度は片付いた。
残りは領軍の治療魔法士にやってもらう。
俺たちは、力仕事だ。
ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
それにドレッド、ジークとともに作業を行う。
「よし。みんな、がんばろうな」
「お任せください。むんっ!」
ミティがそう言って、張り切る。
力仕事といえば、もちろんミティだ。
現状のミリオンズの腕力のステータス値を整理してみよう。
ミティ:333
タカシ:115
ニム:93
アイリス:92
ユナ:78
モニカ:52
以上のようになっている。
ミティがぶっちぎりで強い。
ステータスの数値としては、ミリオンズ内で2位の俺の3倍近くある。
彼女の腕力は非常に頼りになる。
「わ、わたしもがんばります!」
「もちろんボクも、昨日の治療回りに引き続きがんばっていくよ」
ニムとアイリスがそう言う。
実は、ミリオンズ内で3番目に腕力が強いのはニムだ。
腕力強化のスキルをレベル2にまで伸ばしているからな。
ニムは見かけ以上に力が強い。
ラーグの街でチンピラを撃退したことがある。
メルビン師範との模擬試合では、予想以上の腕力でメルビン師範がバランスを崩したこともあった。
メルビン杯1回戦では、ビリーを相手に勝利を収めた。
俺のチートの恩恵によるところが大きいとはいえ、彼女は頼りになる戦力として成長してくれた。
今や、俺たちミリオンズになくてはならない存在だ。
さっそく、俺たち8人で街の復旧作業の手伝いを始めていく。
領軍の兵士が俺たちに指示をくれる。
「これをあの屋根の上に持っていってくれないか」
「わかった。任せてよ」
モニカが荷物を受け取り、そう言う。
「ちょっと待っててくれ。今、はしごを持ってくるから」
依頼した兵士がそう言う。
しかし。
「はしごは要らないよ。……青空歩行」
モニカが高くジャンプし、さらに空中でジャンプをして、屋根の上に登った。
見事な身のこなしだ。
「え、ええ? いったい何が起きた……?」
「わからん。空中でジャンプしたように見えたが……。そんなはずが……」
兵士たちが驚きに目をむく。
「へへへ。鍛え抜かれた脚力を使えば、空中でジャンプできるそうだぜ。俺も痛い目に合わされた」
カザキ隊長が現れ、そう言う。
「すごいでしょ。脚力と料理には自信があるんだ」
「へへへ。しかし、屋根の上に登るだけなら、俺でもできるぜ」
カザキがそう言って、魔法の詠唱を開始する。
「……解き放て。レビテーション。そして……爆ぜろ。リトルボム」
カザキが爆風によりふわりと上昇し、モニカの隣の屋根に登る。
これが、モニカが言っていたカザキの戦闘スタイルか。
確か、重力魔法で体重を軽くしているのだったか。
「むう。なかなかやるね」
「へへへ。俺もどんどん作業を手伝っていくぜ。任せときな」
そんな感じで、高所の作業はモニカとカザキが率先して行っていく。
「私たちもやっていきましょう。この木材をあそこまで運ぶそうです」
ミティがそう言う。
彼女が丸太数本に手をかける。
「いけそうか? 無理はするなよ」
「問題ありません。ふんっ」
ミティが丸太数本をまとめて持ち上げる。
「相変わらずすごい力だな。さすがだ。ミティ」
「えへへ。ありがとうございます」
ミティがうれしそうにそう言う。
「俺も負けてられん。……と言いたいところだが、俺では1本が限界だな」
「おう。俺もそれぐらいだな」
俺とドレッドはそう言う。
それぞれ、丸太1本を1人で持ち上げる。
「わ、わたしは小さめの丸太1本なら、なんとか1人でだいじょうぶです」
「ボクも同じくらいかなー」
ニムとアイリスがそう言う。
彼女たちは、俺やドレッドよりもやや小さめの丸太をそれぞれ1人で持っている。
「ふふん。みんなすごいわね。私は到底ムリだわ」
「…………我もムリだ。獣化すればまだしも、通常状態では厳しい。2人で持とう」
ユナとジークがそう言う。
彼女たちは、2人で通常サイズの丸太1本を持っている。
獣化すれば1人で持つことも可能なようだが、ただの復旧作業でそこまではしないようだ。
まあ、赤狼族のことを広めるのは時期尚早だろうしな。
そんな感じで、みんなで力仕事を行っていく。
特に目を引くのは、もちろんミティだ。
小さい体で丸太数本を軽々と運んでいく姿は、注目の的となる。
「す、すげえぞ、あの嬢ちゃん!」
「1人で何人分もの仕事をしている……。彼女がいれば百人力だ!」
「百人力! 百人力!」
兵士や民間人から、そういった声があがる。
現ハガ王国でも見たことがあるような光景だ。
彼女の二つ名は百人力で定着しつつある。
そうして、街の復旧作業は順調に進み、俺たちの名声も少し広まっていった。
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