ミドルベアとの戦闘が始まる。
「まずは遠距離攻撃からだ。各自、攻撃準備!」
俺はそう言う。
俺、ミティ、モニカ、ニム。
それぞれが遠距離攻撃の準備をする。
「……パラライズ!」
モニカの手のひらから電流のようなものがほとばしる。
ミドルベアにヒットする。
ミドルベアの動きが少し鈍くなる。
少しだけだ。
残念ながら、ゴブリンのように完全に行動を阻害することはできていない。
ゴブリン、リトルベア、ミドルベア。
魔物のサイズや戦闘能力が増大するにつれて、麻痺の効果が薄くなる傾向があるようだ。
体が大きい分、魔法の出力が足りないのかもしれない。
もしくは、魔法耐性があるとかかな。
とはいえ、一定程度は動きがにぶっている。
今がチャンスだ。
俺の詠唱が終わる。
両手を前方にかざし、魔法を発動させる。
「ファイアートルネード!」
ごうっという音と共に火の竜巻が発生し、ミドルベアを襲う。
少し遅れて、ニムの詠唱が終わる。
同時に、ミティが岩を投擲する。
「我が敵を砕け! ストーンレイン!」
「ビッグ……メテオ!」
大きな岩とたくさんの石が、ミドルベアを襲う。
かなりのダメージを与えた。
与えたはずだ。
しかし。
「グルル! グルアアアアー!」
ミドルベアが雄叫びをあげて、こちらに近づいてくる。
もう少しだけでも攻撃をダメージを与えておきたい。
「炎あれ。我が求むるは豪火球。三十本桜!」
「……パラライズ!」
「……ストーンレイン!」
魔法をガンガン放ち、迎え撃つ。
もうミドルベアは目の前にまで迫っている。
「いくぞ、ミティ!」
「わかりました! タカシ様!」
ミティと息を合わせる。
「「……エアバースト!」」
俺とミティの風魔法の同時発動だ。
突風がミドルベアを襲う。
奴がバランスを崩し、横に転倒する。
残念ながら転倒のダメージはあまりなさそうか。
しかし、少しの時間はかせげた。
この間に、各自の近接戦闘の準備が整っている。
「聖闘気、豪の型」
アイリスは聖闘気をまとっている。
彼女は、闘気術や聖闘気術のスキルを伸ばしてきた。
ガルハード杯で俺と闘ったときと比べ、格段に闘気量が増している。
アイリスがミドルベアに接近する。
「豪・裂空脚!」
アイリスの強烈な回し蹴り。
ミドルベアを捉えた。
だが。
「グルアアアア!」
「きゃっ」
ミドルベアの反撃。
アイリスは弾き飛ばされる。
俺たちを囲む土の塀に激突した。
「だいじょうぶか!? アイリス!」
普通に考えれば、重傷間違いなしの勢いで飛ばされていった。
治療魔法が必要だろう。
俺は思わずアイリスに駆け寄ろうとする。
「だいじょうぶ! 闘気でガードしたから」
アイリスが無事に立ち上がる。
軽傷のようだ。
「……ロックアーマー」
ニムが土の鎧をまとう。
「い、いきます! ……ロック・パンク!」
ニムが勢いよくミドルベアにタックルをぶちかます。
なかなかの威力がありそうだ。
脚力強化や体力強化を取得した恩恵だろう。
しかし、ミドルベアが相手では少し威力が足りないか。
ミドルベアがニムのタックルを耐え、反撃する。
「うっ」
ニムが弾き飛ばされる。
土の塀に激突した。
「ニムちゃん!」
モニカが慌てて駆け寄ろうとする。
「ロ、ロックアーマーのおかげで無事です! わたしのことは気にしないでください!」
ニムがそう言う。
この攻防の間に。
ミティがミドルベアの背後に回っていた。
「ニムちゃん。いいタックルでしたよ。あなたの犠牲は無駄にはしません」
ミティがそう言う。
いや。
ニムは死んではいないが。
「ビッグ……ボンバー!」
ミティの全力でのハンマーの振り下ろし。
ミドルベアにクリーンヒットした。
さすがのミドルベアも、この攻撃ではそれなりのダメージを受けたようだ。
奴に隙ができる。
「今です! タカシ様!」
ミティの合図だ。
俺は心を研ぎ澄ませる。
集中する。
「斬魔一刀流……火炎斬!」
俺の斬魔剣で斬りつける。
火魔法を剣に纏わせて攻撃する技だ。
ミドルベアの胴体に、大きな切り傷が入った。
奴が怒り狂い、俺に反撃しようとする。
マズい!
斬魔剣の反動で、うまく避けられない!
「タカシ様!」
「「タカシ!」」
「タカシさん!」
ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
みんなが援護を急いでくれている。
しかし、一歩間に合わないか。
俺はせめて闘気を体にまとう。
何とか耐えきってみせる!
俺がそう覚悟を決めたとき。
ザクッ!
ミドルベアの頭部に何かが突き刺さる。
何だ?
ミティの投擲か?
何にせよ、ナイスフォローだ!
ミドルベアの意識が一瞬逸れた。
俺は体勢を立て直す。
「間一髪だったね。タカシ。無事で良かったよ」
モニカがそう言う。
「そろそろ、私もいいところ見せないとね」
モニカが攻撃の構えを取る。
脚に力と魔力を込めている。
「雷華崩脚!」
モニカの強烈な回し蹴りだ。
脚力強化と格闘術により、高威力になっている。
技のベースは裂空脚だろう。
雷魔法レベル1のスパークを併用することにより、さらに威力が上がっているようだ。
俺たち5人で、それぞれ大技を決めた。
ミドルベアはまだ倒れない。
かなりのダメージを与えてはいるが。
もう少し時間がかかりそうだ。
奴の反撃にも十分に注意して、戦っていく必要がある。
●●●
ミドルベアとの戦闘も終わりが見えてきた。
奴はもうボロボロだ。
こちらの5人は、多少のダメージは負っているものの、戦闘不能レベルではない。
「あと一息だ。みんな。一気に畳みかけるぞ!」
「「「「了解!」」」」
それぞれが、最後の力を振り絞り攻撃の構えを取る。
まずはニムだ。
土魔法の詠唱が終わる。
「……ストーンショット!」
魔法により生成された石が、ミドルベアを襲う。
ストーンレインやロックアーマーを使うMPはもう残っていないようだ。
最後のMPを振り絞ったストーンショットだ。
威力はさほどでもない。
しかし、弱っているミドルベアにはそれなりに有効だ。
奴に隙ができる。
ミティが奴の背後に回り込む。
「ビッグ・ホームラン!」
残る力を振り絞ったハンマーの振り回しだ。
ミドルベアがよろめく。
「いくよ! アイリス」
「うん! モニカ。うまく息を合わせよう!」
モニカとアイリスが、ミドルベアに駆け寄る。
「「W裂空脚!」」
アイリスとモニカの回し蹴りだ。
アイリスが右回り、モニカが左回り。
息の合った同時攻撃だ。
ニムのストーンショットで隙をつくり。
ミティのビッグホームランでよろけさせ。
アイリスとモニカのW裂空脚で、とうとうミドルベアは地面に倒れた。
しかし、すぐに起き上がるそぶりをする。
「炎あれ。我が求むるは豪火球。三十本桜!」
俺の三十本桜で追撃する。
30個の火球がミドルベアを襲う。
「やったか!?」
ミドルベアは起き上がってこない。
……ついに、ミドルベアの討伐に成功したようだ。
恐る恐る近づき、アイテムルームに収納する。
「みんな。ケガはないか?」
「私は大きなケガはありません」
「ボクもないよー」
ミティとアイリスがそう言う。
モニカとニムも大きなケガはないようだ。
みんなそれぞれ、ちょっとしたケガはあった。
俺とアイリスの治療魔法で治療していく。
「ふう。一時はどうなるかと思った。特にあれは危なかった。ミティ、ありがとうな」
「? 何のことですか?」
ミティが首をかしげる。
「あれだよ。俺が斬魔剣の反動で隙だらけになったとき、投擲で助けてくれただろう?」
「いえ。あれは私ではありません。私も岩を投擲しようとしましたが……。それより早く、別方向から投げられていました」
ミティがそう言う。
「ふむ? では、アイリス、モニカ、ニムのだれかか?」
「ボクじゃないよ」
「私も知らない」
「わ、わたしもわかりません」
全員違うようだ。
おかしいな。
一度ミドルベアの死体をアイテムルームから出す。
「ほら。頭のところを見てくれよ」
……ん?
何か身に覚えのある形状だ。
手裏剣だ。
手裏剣のような形状の刃物がミドルベアの頭部に刺さっていた。
「この形状の武器は誰も持ってないよ。誰か通りすがりの人が手伝ってくれたのかな」
アイリスがそう言う。
うーん。
どうせなら、そのまま加勢してくれてよかったのだが。
少し不自然な援護の仕方だ。
「誰が手伝ってくれたのかはわからないが、ミドルベアは無事に討伐できたし良しとしよう。これで一件落着だな」
「いえ。待ってください。元凶がまだです」
「元凶? ああ、カトレアか」
俺たちのこの場所に誘い込み、魔の角笛を利用してミドルベアをけしかけてきた。
カトレアが元凶だ。
彼女の姿を探す。
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