3日目の朝だ。
良く眠らせてもらった。
まだ体は痛むが、動かせないほどではない。
今日も一日がんばるぞい!
そう思ったが、今日はうちのパーティが野営地の番をするらしい。
本当は4日目の予定だったが、俺の負傷により交替してもらったようだ。
せっかくなので、午前中は大人しく療養に専念した。
他のみんなも、最低限の警戒はしつつもリラックスしている。
まあ昼間で明るいしな。
夜警のときとは状況がちがう。
しかし午後になると、あまりにヒマ過ぎて何かしたくなってきた。
まずは水魔法の練習をしよう。
ウォーターボールを発動する。
球状のまま水球を維持する。
そのまま上下左右と移動させてみる。
魔力の値が高いと、魔法の応用性が高まるようだ。
以前発動したときよりも、自由自在に操れる。
ただし、相変わらず速度は大したことない。
良いことを思いついた。
ユナの背後から水球を近づけてイタズラしよう。
ゆっくり……ゆっくりだ……。
あせらない……あせらない……。
駄目だ、まだ笑うな……こらえるんだ……。
しかしあと1mというところで気配に気づかれたのか、振り向かれてしまった。
「もう! 魔物か何かかと思ってビックリしたじゃない!」
ゴメンナサイ。
しかしそう簡単にあきらめる俺ではない。
改めて水球をユナに当てにいく。
「ほーれ。ほーれ。大人しく当たっちゃいなー」
なんかだんだん楽しくなってきたぞ。
がんばって避けるユナ。
水球は遅いし小回りもイマイチなので、なかなか当たらない。
ならばと追加で2つ目の水球を出そうとしたが出なかった。
どうやら同時に出せるのは1つまでのようだ。
「ふふん。私に当てようなんて100年早いわね。身の程を知りなさい!」
ユナがドヤ顔で挑発してくる。
ムキになって当てにいく俺。
「うおおおお! 絶対に当ててやるぞおおおお!」
「望むところよ! かかってきなさい!」
俺達が熱くなってきたところで、ドレッドから怒られた。
「お前らうるせェぞ! ヒマなんだったら剣か弓の練習でもしてろ!」
ゴメンナサイ。
気を取り直して剣の練習をする。
とはいってもあまり激しい運動はできない。
型を確認するだけにした。
ふとユナのほうを見てみると、弓の練習をしている。
10mほど先の木に当てているようだ。
ちょっと気になったので近づいてみる。
「なあ。俺も弓の練習をしてみたいんだけど」
「はあ? あなた剣士でしょ。火魔法も使えるし、弓なんて練習しなくていいじゃない」
「まあそう言わずにさ。もしかしたら俺には弓の隠れた才能が……」
「はいはい、分かったわ。やってみなさい」
俺の才能のくだりは軽く流された。
なぜだ。
ユナから弓を借りて、構える。
力は大丈夫だ。
無理せず弦を引けている。
しかし狙いが安定しない。
手先の微調整が上手くいかない感じだ。
おかしいな。
器用のステータスは結構高いはずなんだが。
とりあえず撃ってみる。
木のはるか手前で地面に刺さった。
ついでに横にも大きく外れている。
「初めてにしてはまあまあね。上達には練習あるのみよ」
それから何本か撃ってみたが、とうとう1本も木に命中しなかった。
俺に弓の才能はなさそうだ……。
スキルで取ってみてもいいが、盾術と同じく自力で取ってみようと思う。
そうだ、盾術だ。
実戦でもちょくちょく盾を活用しているんだが、まだ盾術は取れていない。
日暮れまでまだ時間もあるし、練習しておこう。
そうなると相手が欲しい。
ユナは弓使いだし、ドレッドかジークだな。
彼らに声をかけようと思ったところ、ユナに止められた。
「ふふん。まあ待ちなさい。私も短剣ぐらいなら扱えるわ。相手をしてあげる」
なんでも敵に接近されてしまったときのために、普段から練習しているそうだ。
ただし実際の剣だと怖いので、手ごろな大きさの木片を使ってもらおう。
ユナが木片で攻め、俺が盾で防ぐ。
試合形式の練習にした。
ユナの勝利条件は、俺の頭部・腕・腹のいずれかにまともに当てること。
俺の勝利条件は、夕暮れまで防ぎきること。
ん?
「なあ。この条件は俺がちょっと不利じゃないか? 夕暮れまでまだかなりあるぞ」
「勝負する前から言い訳かしら? 男のくせに情けない奴ね」
ユナはやれやれと呟いて、大げさに首を振る。
カッチーン。
「いいだろう。俺に勝負を挑んだことを後悔するがいい!」
「ふふん。そう上手くいくかしら?」
しばらくの間は俺が見事に防ぎきってみせた。
もうそろそろ夕暮れといっていい時間帯だろう。
「あと少しで俺の勝ちだ! ふはははは、残念だったな小娘!」
「何よ! 勝負は最後まで分からないわ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
俺達が熱くなってきたところで、ドレッドからまた怒られた。
「お前らうるせェぞ! そろそろ夕暮れだ! 大人しくしてろ!」
ゴメンナサイ。
そんなこんなで日も暮れた。
黒色の旋風と蒼穹の担い手も無事帰ってきている。
夕食も食べ終えた。
そろそろ寝よう。
天幕に入り横になる。
しばらくして隣に人の気配がした。
ユナだ。
心なしか顔が赤い。
「ねえタカシ……。隣で寝てもいい?」
「ああ……」
平静を装っているが、内心はパニックである。
これはあれかな?
そういうことなのかな?
でも近くにはジークも寝ているぞ。
どうしよう?
どうしたらいいんだろう?
そんなことをゴチャゴチャ考えてると、隣から寝息が聞こえてきた。
そうですよね。
寝るって別にそのままの意味ですよね。
よく見ると別に顔も赤くないし。
深読みして恥ずかしいです。
はい。
私も寝ますね。
おやすみなさい。
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