俺はサーニャちゃんに、何か力になれることはないか聞いた。
「え? で、でも……お客様は既に金貨100枚も出してくれて――って、ああっ! そうでしたにゃ! お客様に金貨100枚を返さないといけなかったのですにゃ!!」
サーニャちゃんが慌て出す。
俺はダダダ団に対して、彼女の代わりに金貨100枚を返済してあげたのだ。
本来であれば、それで借金が完済となって一件落着のはずだったのだが……。
強欲でたちの悪い彼らは、土壇場で借金額を水増ししてきた。
つまり、俺はあいつらにタダで金貨100枚を上げてしまったようなものである。
「ごめんなさいですにゃ! お客様は命の恩人の上、すっごい額のお金まで出してくれたのに……」
「はは……。いいんですよ。気にしないでください」
俺は慌てて謝るサーニャちゃんに笑いかける。
金で恩を売れば、気軽に忠義度を稼ぐことが可能だ。
しかし、それにも限界がある。
通常の加護には忠義度50、加護(小)には忠義度40が必要だ。
金貨100枚を肩代わりした程度でドヤ顔してしまうと、せいぜい忠義度30ぐらいで止まってしまうだろう。
「でも――」
「むしろ、これで貸し借りなしということでいかがでしょうか?」
「にゃにゃっ!? にゃぁは、お客様に貸しなんて作っていないのですにゃ! にゃぁがお客様にお礼をしなければいけないのですにゃ!」
サーニャちゃんが焦りだす。
どうやら心当たりがないようだ。
「この部屋のことですよ。きれいに掃除をされたようで、今はすっかりきれいになっていますが……。朝は、なかなかにひどい状態になっていたのではありませんか?」
「にゃ? あ、そういえばそうでしたにゃ! シーツがグチャグチャでシミだらけでしたし、ヌルっとした変な液体とかも床に広がっていましたにゃ!」
「でしょう? ですから、借金の肩代わりはそのお詫びということにしましょう」
俺はそう言う。
昨晩は、モニカやニムと共にハッスルしてしまった。
普段からハイブリッジ邸で夜の運動会を楽しんではいる。
だが、こうした旅先では解放感もあってか、ついハメを外すことが多い。
特に今回は、いつも以上に盛り上がってしまった気がする。
その結果、液体やら何やらが色々と飛び散ってしまったのだ。
そういう類の宿でもないのに、シーツや床を汚しまくるのは明らかなマナー違反である。
お詫びと謝罪金が必要だ。
「そ、そういうわけにはいきませんにゃ!」
「どうして?」
「もう十分すぎるほどのお金をもらっていますにゃ! ただの掃除で金貨をもらった時点で、もらいすぎですにゃ! その上、金貨100枚の肩代わりなんてあり得ませんにゃ!!」
サーニャちゃんは必死に反論してくる。
俺の提案を受け入れても、彼女にとって特に不都合はないはずなのに……。
律儀な子だな。
だが、ここで引き下がるわけにもいかなかった。
「年頃の女の子が、あんな状態のベッドを掃除のは辛かったと思いますよ。どうか、お礼として受け取ってください」
「にゃ? 大変でしたが、辛くはなかったですがにゃぁ……。ヌルっとした変な液体があったぐらいで……」
「まさにそれが問題だと思っていたのですが……」
元々がそういう類の宿屋であれば、そっち方面の掃除にも慣れているだろう。
担当者がオッサンやオバチャンであれば、俺もあまり気にしなかったかもしれない。
しかし、サーニャちゃんは13歳ぐらいだし、そういったことにも疏そうだ。
この感じだと、あの液体の正体すら理解していないようである。
(言うべきか、言わざるべきか……)
俺個人の感覚ならば、正直に言うべきだと思う。
今回の出来事をきっかけに、彼女にちゃんとした知識を付けてもらうのだ。
サーニャちゃんという発展途上の膨らみかけ美少女……。
そんな彼女が初めて掃除したのは、アレだったのだ。
それを思うだけでも、少しばかり興奮してしまう。
(いやいや、そんなゲスな欲望のために伝えるわけにもいくまい。世の中には、知らない方が幸せってこともあるんだし……)
俺は首を振った。
そんな俺を見て、サーニャちゃんが不思議そうな表情を浮かべる。
「どうされましたにゃ? ――あっ、これは……」
「え?」
サーニャちゃんが視線を向けた先を、思わず見る俺。
床の片隅であるそこには、昨晩の『エクスプロージョン』の跡があった。
拭き残しだろうか?
それは、まだ乾ききっていないように見えたのだった。
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