メルビン杯の1回戦の続きだ。
俺は無事に1回戦を突破した。
次はアイリスの試合だ。
対戦相手は、ババン。
俺はこの名前を聞いたことがない。
少なくともガルハード杯には出場していなかったように思う。
「続きまして、第2試合を始めます! アイリス選手対、ババン選手!」
司会の人がそう叫ぶ。
アイリスがコロシアムのステージに上がる。
対戦相手のババンと対峙する。
彼は30代くらいのおっさんだ。
体格はそれなりにいい。
筋肉もそこそこあるようだ。
ただし、ギルバートやジルガほどではない。
「うぃー。はっはっは! お嬢ちゃんが相手か! ケガをしたくなければ辞退してもいいんだぜ?」
「いや。ボクにそのつもりはないよ。お互いに悔いの残らない試合をしよう」
「おうおう。心構えだけはいっちょ前だな。ケガさせないように手加減するのも大変なんだがな」
ババンは、アイリスのことを少し侮っているようだ。
まあ、見かけは10代の少女だからな。
なめられるのも仕方がないか。
とはいえ、彼女のバランスのいい立ち姿を見ただけでも、実力の一端はわかりそうなものだが。
それに、彼女は前回のガルハード杯に出場していたし、防衛戦や潜入作戦でも活躍した。
そんな彼女のことを知らないとは。
彼は最近ゾルフ砦にやってきた人だろうか。
「両者構えて、……始め!」
試合が始まった。
「さっそくいかせてもらうぜ! くらいな!」
ババンがアイリスに駆け寄り、パンチを繰り出す。
「よっ」
アイリスがそれをうまく受け流す。
彼女は器用のステータスが高い。
こういう受け流しの技も得意なのだ。
「ぬっ! やるじゃねえか! 少し本気でいくぜ!」
ババンが攻撃の速度を上げる。
それなりに強くて速いラッシュだ。
だが。
「ボクには通用しないよ。……せいっ!」
アイリスが問題なく攻撃をいなす。
スキを突いて、反撃も行う。
しばらくは同じような展開の攻防が繰り返される。
彼女が優勢だ。
しかし、少し違和感があるな。
「ちぃっ! 小手先の技でいい気になってんじゃねえぞ!」
ババンがそう言って、アイリスから距離をとる。
「俺様の真の力を見せてやろう! ぬうううっ!」
ババンが闘気を開放する。
そうだ。
何か違和感があると思ったら、2人とも闘気を使っていなかったのだ。
「へへへ。これが闘気術だ。お嬢ちゃんはまだ使えないんだろう? 勝負ありだな」
ババンが勝ち誇った顔でそう言う。
「いや。闘気術はボクも使えるけど……。はあっ!」
アイリスがそう言って、闘気を開放する。
「なにっ!? くっ。力を隠してやがったのか。もう容赦せん! いくぜ!」
ババンがそう言って、アイリスに攻撃を仕掛ける。
アイリスが攻撃をうまく受け流す。
時おり反撃する。
両者とも闘気術により出力が上がった以上、先ほどと状況はあまり変わっていない。
こうなってくると地力がものを言う。
「ちぃっ! こうなりゃさらに奥の手だぜ! 」
ババンが拳と腕に闘気を集中させる。
何をする気だ?
「ぬううぅ! ふんっ!」
ババンがステージに拳を叩き込む。
岩でできたステージが砕ける。
破片が宙を舞う。
「くらえぃ! 破岩弾ん!!」
彼がそう言って、宙に浮いた破片をパンチで弾き飛ばしてくる。
こういった形での飛び道具があったとは。
これは武闘の試合だし、少し邪道な気がしないでもないが。
しかし、こんなことをしてもムダではなかろうか。
アイリスは、技量だけではなくてスピードも優秀だ。
この程度の飛び道具は、簡単に避けられるだろう。
「避けるのは簡単だけど……。せっかくだし、この技をお披露目しようかな」
アイリスがそう言う。
どうやらあの技を使うようだな。
ババン相手には使う必要はないとは思うが。
実戦の中で使ってみて、慣れておこうという心づもりだろう。
「聖闘気、流水の型」
アイリスがこの1か月で新たに習得した聖闘気の型を発動する。
迅雷の型は、スピードが向上する。
豪の型は、パワーが向上する。
守護の型は、耐久力が向上する。
そしてこの流水の型は、技量や反応速度が向上するそうだ。
「よっ! はいっ! せいっ!」
ババンによって弾き飛ばされた岩の破片を、アイリスが華麗に受け止めていく。
はたき落とすわけでもなく、迎え撃って壊すわけでもなく。
きれいに勢いを殺して、足元に積み上げていく。
見事な技量だ。
「これでおしまい! まだやるの?」
ババンによって飛ばされた岩の破片が、無事に全て片付けられた。
きれいに積み上げられている。
これで、飛び道具はアイリスには通用しないことがわかっただろう。
一方で、まともに闘ってはアイリスに敵わないことも理解しているはず。
「……降参する。俺の負けだ」
ババンがギブアップした。
少し地味な幕切れだ。
まあ、ババンにはもう打つ手が残されていなかったし、あのまま闘いを続けても勝ち目はなかっただろうが。
「ババン選手の降参を認めます! 勝者アイリス選手!」
審判がそうアイリスの勝ちを宣言する。
彼女がステージからこちらに戻ってくる。
「おめでとう! アイリス!」
「おめでとうございます!」
俺とミティ、それにモニカとニムでアイリスを出迎える。
「ありがとう。まあ1回戦だし、このくらいはねー」
アイリスがそう言う。
確かに、今回の相手はアイリスからすれば格下だったと思う。
順当勝ちといったところか。
俺とアイリスは無事に1回戦を勝ち抜いた。
次はミティの試合だ。
彼女の実力なら、そんじょそこらの武闘家には負けないだろう。
安心して見守ることにしよう。
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