「やったか!?」
俺の問いに答える者はいなかった。
煙が晴れると、そこには満身創痍の幻影たちが膝をついている姿があった。
「お見事……」
「この力……愛する女性の数だけ強くなれるというわけか」
「我らでは勝てぬわけだ」
「本人格よ。我らの力……参考にされたし」
幻影の数人がそう言う。
そして、そのまま砂のように崩れ去った。
「……自分で自分をぶっ殺すってのも、嫌なもんだな」
「それは違う。我らはただの精神体だ」
「あくまで貴方の魂を計測し、可能性を演算し再現しただけの存在ですから……」
「我らは……本人格の糧となり、永遠に生き続けるのだ……」
幻影たちが次々と口を開く。
彼らの口調は、どこか安らかだった。
俺は無言で彼らを見つめる。
そして――彼らはそのまま砂のように崩れ落ちた。
「……」
俺は何も言えなかった。
砂のようになった彼らの亡骸は、サラサラと隙間風に乗って消えていく。
彼らの言葉が真実なら、言わば人工知能のような存在だったのだろうか?
だが、あの記憶は鮮明で、生々しかった……。
俺は最後に残った幻影に視線を向ける。
「本人格よ……。本物のマイハニーを泣かせたら……許さないぞ……」
「任せとけ。俺の愛は、魅力的な女性の分だけ存在する。その中でも……この世界で最初に出会ったミティへの愛は、特別さ」
「……任せたぞ。さらばだ……」
最後の幻影がそう言うと、彼の姿は完全に消え去った。
これで一件落着と言っていいだろう。
術者であった巫女イノリの姿が再び現れているが、意識を失っているようだ。
とりあえずは放置でいい。
「ふぅ……」
俺は大きく息を吐いた。
そして、自分の両手をジッと見つめる。
「そうだ……。ミティ……アイリス……。共鳴水晶が示していた方角は……」
彼女たちの名前を口にすると、愛おしさが込み上げてくる。
彼女たちの温もりを、俺は確かに感じたのだから……。
早く合流しないとな……。
「ぐっ……!?」
不意に、俺は全身に痛みを感じた。
何か、身体が重い……。
体の構造が変化していくような……。
「な、何だ……?」
俺はステータス欄を開いてみる。
ステータス自体に異常はなかった。
だが、いつの間にか新たなミッションが追加されている。
ミッション
霧隠れの里の幻影に打ち勝とう
報酬:ハーレム・スタイルのユニークスキル化
スキルリセットの削除
「な、何だ……これ……」
俺は思わずつぶやく。
ハーレム・スタイルのユニークスキル化?
よく意味が分からない。
だが……おおよその想像はできる。
先ほど出した力を、スキルという枠組みに落とし込んでくれるのだろう。
それは、まぁいい。
問題は、『スキルリセットの削除』だ。
一度も使ったことがない機能とはいえ、勝手に削除されるのは困る。
「おい、権限者! 何を勝手なことをしてるんだ! 俺はミッションが追加されたことすら知らなかったぞ! それに、俺はまだミッションの達成処理をしていなかったじゃないか!!」
俺は虚空に向かって叫ぶ。
しかし、俺の声はむなしく木霊するだけだった。
「くそっ……。とにかく、ミティたちと合流しないと……あぐぅっ!?」
俺は全身に走る激痛に思わずうずくまる。
そして、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「う……ぐ……」
俺の身体が変化していくのを感じる。
ミティやアイリスたちに会いたい。
だが、動けない……。
そして、俺はそのまま意識を失ったのだった。
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