「うーん、やっぱり妙だよねぇ……」
「うん。なんか、ふんどしの山の下に誰かいる気がするんだよねー」
「えっ? そんなまさか! ただの行李の中に人が入ってるわけないじゃん! やる意味ないし!」
「でもさ、サイズ的には一応入れるし……。それに、このふんどしの山は明らかにおかしいでしょ? まるで、誰かがそこに隠れているみたいな……」
少女たちは行李の中身を改めて確認する。
そして、何者かの存在を確信し始めたようだ。
(落ち着け……落ち着くんだ……)
俺は心臓の鼓動を懸命に抑える。
こういう時こそ冷静にならなければいけない。
俺の『インビジブル・インスペクション』は完璧ではないものの、強力だ。
単に『衣類の山の中に隠れている』という状況と比べれば、見つかる確率は少しだけ低めである。
諦めたらそこで試合終了……。
希望を捨てるのはまだ早い。
「どうする? 中を確認しちゃう?」
「そうねぇ……」
少女たちの会話が不穏な方向に進んでいく。
このままではまずい。
だが、今の俺は身動きが取れない状態だ。
どうする?
どうすればいい!?
(くっ……! こういうときこそ、深呼吸だ! 深呼吸……!)
俺は心を落ち着けようと、大きく息を吸う。
そして……。
(うっ!?)
その瞬間、ふんどしの甘い香りが鼻腔に広がった。
ふんどしは、若い女性の下着である。
つまり、その香りには女性のフェロモンがたっぷりと染み込んでいるのだ。
そして今、俺はふんどしの山に隠れている。
その香りを間近で吸い込むことによって、フェロモンが……。
(うぉぉぉぉぉっ!!)
俺は鼻から大きく息を吸った状態から、しばらく停止していた。
ふんどしの香りは強烈で、頭がくらくらする。
そして何より……俺の息子が反応してしまった!!
(静まれぇぇぇぇっ!!)
俺は息子をなだめる。
今は緊急事態なのだ。
そんな余裕はない!
だが、本能というものは厄介だ。
一度反応した息子は、なかなか大人しくなってくれない!!
「ねぇ……。やっぱり、この行李の中に誰かいるよ! 間違いない!!」
「確かにそんな気配はするけど……。どうして間違いないの?」
「ほら、あそこ! 山が崩れて……侍装束が少しだけ見えてる!」
「えっ!? ほんとだ!!」
少女たちが騒ぎ始める。
なんということだ……!
身を隠すのに十分な量のふんどしがあったはずなのに、その一部がついに崩れてしまっていたらしい。
(まずい! これは、非常にまずいぞ……!?)
俺は焦る。
このままでは、彼女たちに見つかってしまう。
いや、もうすでに見つかったようなものだ。
あとは、彼女たちから見えている侍装束のあたりから発掘され、俺という侵入者が白日の下にさらされるだけ……。
だが、俺はまだ諦めない!
最後の最後まであがき続けてやる!!
(ワンチャンだ……。『なんだ、侍装束が混じっていただけじゃん』となる可能性がなくもない……! 徹底的に静かにして、気づかれないようにするんだ……!)
俺は息を潜める。
ふんどしから発せられる甘い香りに耐えつつ、俺は『インビジブル・インスペクション』を維持し続けるのだった。
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