ソーマとの決闘が始まろうとしている。
使用するのは、刃を潰した剣だ。
今までの模擬試合は、素手や木剣で行ってきた。
刃を潰しているとはいえ、金属製の剣での模擬試合は初めてとなる。
胴体などにモロにくらっても死にはしないだろうが、骨の1本や2本は覚悟しないといけない。
俺とソーマが街の広場で対峙する。
その左右を挟むように、観衆たちが位置している。
「…………」
「…………」
静寂が辺りを包む。
先に動いたのはソーマだった。
「花の型……。桜の舞!」
ソーマの優雅に流れるような斬撃だ。
攻撃の初動が見極めづらい。
「む!」
俺はとっさに受け止めようとする。
しかしーー。
「甘いぞ! そこだ!」
彼が剣の軌道を変えた。
流れるような動きで俺の防御をすり抜けてくる。
そのまま、俺の銅に軽い一撃を入れた。
「く……」
俺は後方に下がる。
俺の剣術スキルはレベル4なのだが。
純粋な剣技ではソーマに分があるか?
まあ、スキルだけではなくて本人の判断力や経験の要素もあるしな。
長期戦になるとマズイかもしれない。
地力の差で押し切られるだろう。
ここは……。
「くらえ! 十六夜連斬!」
俺は16連の斬撃を放つ。
マリアの兄のバルザックが使っていた十六夜連撃を参考にした技だ。
俺の高い身体能力を活かして、技術ではなく威力や速度で押していく作戦である。
「やるな……。風の型、天つ風!」
ソーマが負けじと速度を上げる。
彼は彼で、なかなかの速度だ。
「せいっ!」
「ふんっ!」
「なんの!」
「どりゃあ!」
俺とソーマの、速度重視での激しい攻防が繰り広げられる。
スピードにおいても、俺と彼は互角か。
ならば……。
「斬魔一刀流……」
俺の大技で決めてやる。
そう思ったがーー。
「斬魔一刀流……」
ソーマも俺と似たような構えだ。
彼も俺と同じ氷炎魔剣流なのか?
「魔皇炎斬!」
「魔皇氷斬!」
俺はとっておきの大技、魔皇炎斬を繰り出す。
しかし、ソーマも対抗するかのように似たような技を出してきた。
俺の魔皇炎斬の、氷版のようだ。
ドーン!!!
俺とソーマは、攻撃の余波でそれぞれ後方に弾き飛ばされる。
俺はすぐに起き上がる。
「…………!! こんなエセ騎士に、俺の魔皇炎斬が……」
魔皇炎斬は俺の三大切り札のうちの一つだぞ。
ミティにつくってもらった紅剣ドレッドルートではない分、少し威力が控えめだったという事情はあるが……。
「……く……!! こんなヘナチョコルーキーに、私の魔皇氷斬が……。冗談じゃないぞ」
ソーマがそうつぶやきながら、立ち上がる。
彼は彼で、自分の技に自信を持っていたようだ。
おあいこだな。
「なかなかやるじゃないか。女にうつつを抜かした騎士紛いだと思っていたぞ」
俺はそう言う。
正直、少しなめていたかもしれない。
彼のギルド貢献値は1億6000万ガルだそうだしな。
やはり、実力は確かなのだろう。
「当然さ。私は愛する妻たちを幸せにする使命を持っているからね。君みたいなぽっと出のルーキーに負けるわけにはいかない!」
ソーマがそう言う。
愛する妻たちを幸せに?
なかなか殊勝なことを言う。
「では、その使命に耐えうる実力があるか見てやろう」
俺は剣を油断なく構えつつ、氷魔法の詠唱を開始する。
「……氷の精霊よ。我が求めに応じ、氷の雨を降らせよ。アイスレイン!」
無数の氷の弾がソーマに向かう。
かつてバルザックとの試合でも使用したが、あのときよりも弾数や速度が向上している。
リーゼロッテの水魔法の講義のおかげだ。
「く……」
ソーマはたまらず距離をとった。
しかし、俺は射程を修正して再度発動する。
「はっはぁ! どうだ! かつて、ゴブリンの群れを一網打尽にしたこともある魔法だぞ!」
大量の弾幕の前では、相手の選択肢は多くない。
防御魔法や闘気で耐えて反撃の機を待つか、超速で回避して回り込むか。
あるいは……。
「ふん! ゴブリンなどといっしょにするな! この程度の弾幕、落ち着いて見極めればどうということはない!」
キン!
キンキン!
ソーマが剣で氷の弾を受け流しつつ、まっすぐに俺のほうに接近してくる。
彼の剣技がこれほどのものだったとは。
だがーー。
「弾けろ。エアバースト」
「なにっ! うっ!」
俺の初級の風魔法を受けて、ソーマが後方に弾き飛ばされる。
風魔法は威力や殺傷力に欠けるが、見えないのが最大の長所だ。
いくら彼でも、見えない風の塊は回避できない。
「はっはっは! 剣技だけならまだしも、魔法も込みなら勝負は見えたようだな。リーゼロッテさんとサリエの件はあきらめろ。俺が代わりに幸せにするから、安心しな」
俺はビシッとそう言う。
貢献値1億6000万ガルというからどれほどのものかと緊張したが、戦ってみればさほどのものでもないな。
剣技だけならどうなっていたかわからないとはいえ、総合力で俺が負けることはそうない。
「信じられるか! 女性を幸せにするのは、この私だ! …………グ……ガ……!」
ん?
彼の様子が急変した。
「お、おい。どうした?」
俺はソーマの様子をうかがう。
胸を抑え、苦しそうな表情をしている。
そして、目には黒いモヤがかかっている。
「タカシ。これは闇の瘴気だよ! さっきから違和感があったんだ」
アイリスが俺に近づいてきて、そう言う。
確かに、飯屋の一件の時も、アイリスは何かを見定めるような目で見ていた。
それにしても、模擬試合の最中に闇の瘴気が活性化するとは。
タイミングが悪い。
いや、聖魔法を使える俺とアイリスがこの場にいるし、むしろタイミングはいいのか。
「闇の瘴気か。こうなれば、もはや決闘どころではないな。俺とアイリスの聖魔法で浄化しよう」
俺はそう言う。
闇の瘴気には今まで散々苦労させられてきた。
しかし今となっては、俺とアイリスは聖魔法をレベル4にまで伸ばしている。
たいていの闇の瘴気は軽く祓えるだろう。
俺はそんなことを考えつつ、ソーマのもとへ向かおうとするがーー。
「ガアアッ! オレにチカヅクナ! ミサをシアワセにするのはオレダ!」
正気を失った彼が暴れている。
ミティやモニカの誘導のもと、いつの間にか観客たちの避難は済まされている。
「……ダメだ。ここまで暴れていると、聖魔法をかけられない。まずは落ち着かせないと……」
「わかった。決闘は終わりだ。俺たちミリオンズで、ソーマをおとなしくさせるぞ!」
俺はそう言う。
ここからが、第2ラウンドだ。
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