「あんたの……あれだけは簡単には許せない!」
景春が俺を睨む。
しかし、相変わらず俺の膝の上から動こうとはしない。
「あれって? 処刑するフリをして、怖がらせたことか?」
あの一件は演技である。
最初から、景春を処刑するつもりなんてなかった。
桜花七侍の面々にも事前に説明して根回し済みだった。
処刑する芝居で景春の権威を失墜させる代わりに、景春を助命する……。
そんな条件に、地位や金銭面でもメリットも付け加え、俺に従わない場合のデメリットを説明して脅迫し、ようやく寝返らせることに成功したのだ。
もっとも、樹影は暴走する一歩手前だったが。
景春の生存のために必要な演技だと分かっていても、泣き叫ぶ姪を前に冷静ではいられなかったらしい。
「違うわよ! ほら、あの生首! 贈り物って言われて開けたやつ!!」
「ああ……」
そっちか。
あれは、その後の処刑演技の迫真性を高めるための小細工だ。
唐突に『景春、お前を処刑することに決めた』と宣言しても、景春がビビっていた可能性は低い。
俺が甘ちゃんであることを、彼女は見抜いていたからだ。
そこで、景春の話に入る前に、他の者を処刑した事実を見せつけて景春を怖がらせることにしたのだ。
「あの生首、とっても怖かったんだから!」
「すまんすまん」
俺は軽く謝る。
「もう! 本当に怖かったのよ!」
景春がぷりぷりと怒っている。
しかし、その仕草はどこか可愛らしい。
「でも……改めて思い返せば、あの子も可愛そうね」
「幽蓮のことか? あいつは反逆者だぞ?」
俺は告げる。
景春をビビらせるために生首となったのは、少女忍者の幽蓮だ。
無月の部下で、黒羽や水無月の同僚。
俺との初顔合わせのとき、その場で暴れたのだ。
いや、正確に言えば暴れようとしただけか。
まぁいずれにせよ、藩主である俺に危害を加えようとしたのは間違いない。
俺と景春の争いは藩主としての正当性を巡る政治的な争いであり、景春に明確な罪状はない。
一方、幽蓮の罪は明確な反逆罪である。
殺されても文句は言えない。
「それは聞いたけど……」
「俺のことを甘ちゃんと言うが、景春だって大概だな」
「な、なによ!」
景春が噛みついてくる。
可愛いやつだ。
幽蓮なんて、元藩主の景春から見て格下の存在のはずなのに……。
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