「速度がご自慢か?」
「そうだ! 我ら雷鳴流は、雷の如き剣速を目指し鍛錬をしている!!」
「決まった型を持たぬ流浪人風情に、負けるはずがない!!」
俺の問いに、男たちが叫ぶ。
彼らにも雷鳴流剣士としてのプライドがあるようだ。
桔梗の誘拐や監禁に加担しているくせに……。
「ならば、こちらも『雷速』で攻めるのみだ」
俺は呟く。
魔力を開放し、雷系統に変質させた。
「む……! 雷妖術との合わせ技か!」
「こいつは珍しい……! 初めて見たぞ……!!」
「臆するに足らん! ただ物珍しいだけだ!!」
「そんな見世物芸で勝てると思うな!!」
彼らは一斉に斬りかかってくる。
俺はそれを回避しつつ、刀を振るった。
「【雷光一閃】!!」
俺は雷魔法を発動する。
刀に魔力を纏わせ、剣速を上昇させる武技だ。
「うおおおっ!?」
「ぐああああぁっ!!」
「ぎゃああああぁっ!!!」
俺の一撃を受けた男たちは吹き飛ばされる。
その一撃で、全ての門下生が気絶した。
「残ったのはお前だけか。準師範というだけあって、ちゃんと最後まで残っているじゃないか。褒めてやろう」
「ば、馬鹿な……! 一瞬で、雷鳴流の未来を担う『十傑』が全滅だと……!! こんなことが……!! あ、あり得ない……!」
俺は、呆然としている準師範の男に歩み寄る。
完全に無防備だ。
俺はそのまま彼の首元に刀を振り下ろした。
「あぐっ!?」
「峰打ちだ。しばらく眠ってろ」
俺は刀を鞘に納める。
準師範の男は倒れ伏した。
「さて、残るは雷轟だけだ。さっさと倒してしまおう」
俺は稽古場の奥を見る。
そこには、雷轟が待ち受けているだろう。
もし桔梗の身に何かあれば、俺は……。
「う……ぐ……! ……いや、今は考えるのはよそう。まずは、雷轟を倒すことだけを考えるべきだ……」
俺は自分に言い聞かせるように呟く。
気を抜くと、闇の感情に飲み込まれそうになる。
この力は強大だ。
単純に戦闘時のパワーなどが増す他、精神的な思い切りが良くなる。
身を任せた方が、いろいろな事柄がスピーディに進んでいきそうだ。
しかし同時に、何か大切なものを失ってしまいそうな気もするのだ。
ただでさえ記憶喪失で自分というものを半ば見失っている今、どす黒い感情に染まってしまったら……。
いよいよ、俺が俺でなくなってしまう。
そんな予感がした。
「とにかく、今は桔梗だ……。彼女さえ無事なら、まだ引き返せる……。紅葉や流華とも合流して、楽しく暮らそう……。無月が改心したなら、流華の師匠になってもらうのもいいな……」
俺は必死に闇の感情を抑え込む。
そして、道場の奥へと進んでいったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!