少女騎士たちとの戦いも終わりを迎えている。
ナオミ以外は、戦闘不能もしくは降参に追い込んだ。
そしてナオミは木剣を失い、その後の武闘も俺には通じていない。
「ナオミちゃんは十分に戦ったよ。さぁ、わざわざ痛い目に遭う必要もあるまい。降参してくれ」
「いえ、まだですっ!!」
ナオミはそう叫ぶ。
そして、ジリジリと間合いを詰めてきた。
次の瞬間――
「【飛竜の型】!!」
ナオミが叫んだ。
同時に全身にまとう闘気が膨れ上がっていく。
「【飛竜の型】とは珍しい技を使うな」
俺は感心して呟いた。
これは、闘気による身体強化系の技術の一つだ。
ドラゴンやワイバーンなど、空を飛ぶ魔物と戦うときに有効な技らしい。
機動力が向上する他、一撃の破壊力も増大するという。
ただし、制御が難しいらしく、使いこなすためには相当の努力が必要なはずだ。
「ハイブリッジ様! これがアタシの全力ですっ! はあああぁっ!!」
ナオミが闘気を練り上げる。
そして――
「【飛竜・爆砕波】!!」
彼女の両手から、強力な闘気弾が放たれた。
「むんっ!」
俺はその攻撃に対し、同じく闘気弾を放つ。
ドゴォッ!!
強烈な衝撃音が響く。
それぞれから放たれている闘気弾が拮抗していた。
俺たちは闘気を放ち続ける。
「ぐぬぅ……」
「うぅ……」
お互いに一歩も引かない。
まさか、ナオミがこれほど強力な闘気弾を使えるとは……。
予想外だ。
(俺は闘気弾があんまり得意じゃないんだよなぁ……)
ステータス上の『闘気術』のレベルは4だ。
かなりの闘気量を誇る。
闘気による身体や武具の強化はお手の物だ。
ただし、闘気を放出することはあまりしない。
遠距離攻撃なら、火魔法や水魔法があるからだ。
「やるじゃないか、ナオミちゃん。この俺と互角とはな」
「はぁ、はぁ……。うあああぁっ!!!」
俺の問いかけに、ナオミは答えない。
無視しているのではなくて、単に答える余裕がなさそうだ。
全力で闘気を放出しているため、消耗が激しいのだろう。
このままだと闘気切れで倒れてしまいかねない。
(仕方がない。そろそろ終わらせるか)
俺は右手の人差し指を立て、クイっと動かした。
すると、闘気弾の均衡が崩れる。
俺の闘気弾によって、ナオミの放った闘気弾が押し戻されていったのだ。
「あっ!?」
驚きの声を上げるナオミ。
だが、もう遅い。
俺はナオミの闘気弾を打ち破って――
ボンッ!
不意に、俺の横顔に闘気弾が直撃した。
威力はそれほどでもないが、突然の出来事で少し驚いたぞ。
「おっ!? なんだ?」
俺は首を振って、横を見る。
そこには、闘気弾を放ったと思われる少女騎士――ルシエラが立っていた。
「はぁっ、はぁっ……」
荒い息を吐きながら、彼女は俺を見つめる。
そして、力尽きたのかその場に倒れ込んだ。
(木剣を没収して終わりだと油断していたな……。確かに、武器を没収されたら失格とは言っていなかった)
俺は苦笑する。
一太刀……ではないが、これも一応は俺へ一撃当てたことになってしまうな。
ルシエラへの褒美を考えないと――
いや待て。
今はそれどころじゃない。
「今ですっ! はあああぁっ!!!」
ナオミが叫び声を上げ、闘気弾の出力をさらに上げる。
それは俺の闘気弾を打ち破り、こちらへ向かってきた。
「おおおおおぉっ!?」
余裕ぶっていたところに、ルシエラからの横槍。
完全に虚を突かれた形となり、俺は慌てる。
慌てて出力を増そうとしたが、間に合わない。
「ぎょえぇー! そ、そんなバカなーーーっ!!」
闘気弾は俺へと着弾し、大爆発を起こす。
「ぐっはあああぁっ!!!」
まともに食らった俺は吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
「や、やった!! ハイブリッジ様に一撃を入れました!!!」
「「「おおおおぉっ!!!」」」
少女騎士たちから歓声が上がる。
これで、ナオミの実力が認められたことだろう。
意図して一撃を受けたわけではないのだが、これはこれで結果オーライというやつだ。
「すごいわ、ナオミちゃん!」
「さすがですね」
「うん、ナオミちゃんは頑張っていたもんね」
少女たちが口々にナオミを称える。
「えへへ……。これで、アタシもハイブリッジ様の……お側……に……」
ナオミは照れ笑いを浮かべると、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
俺は慌てて彼女の元に駆け寄り、抱きかかえる。
「大丈夫か? ナオミちゃん?」
「あ、あれ……。ハイブリッジ様、どうして……」
ナオミが不思議そうにつぶやく。
まぁ、弾き飛ばしたはずの相手が、自分を抱き留めているのだから無理もない。
「ナオミちゃんの攻撃は素晴らしいものだった。だが、まだ技が未完成だったようだな。弾き飛ばされはしたが、ダメージ自体は軽微だった」
物理的な攻撃の目的は、大きく2つある。
1つは、弾き飛ばしたり体勢を崩させたりすることによって、相手の戦闘態勢を強制的にリセットさせることだ。
剣やハンマーによる急所以外への攻撃、シールドバッシュ、風魔法の『エアバースト』などがこれに当たる。
そしてもう1つが、相手の継戦能力を奪うことだ。
剣やハンマーによる急所への攻撃、高火力の魔法攻撃などがこれに当たる。
ナオミの『飛竜・爆砕波』は、もっぱら前者の目的に即したものとなっていた。
「うぅ……。そんなぁ……」
「落ち込む必要はない。ナオミちゃんは良く戦った。ハイブリッジ家に登用するにあたって、何の不満もないほどにな」
「そうですか? ふぇへへ、良かったぁ……」
ナオミは安心したのか、微笑みながら意識を失ったのだった。
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