ダダダ団の本拠地へと向かっている『三日月の舞』。
その道中の雑談で、エレナの過去の話となった。
彼女はかつて孤児であり、いろいろと苦労してきたらしい。
「あれ? でも、それがどうしてハイブリッジ男爵への憧れに繋がるっすか?」
「そのことだけどね。テナ、あなたはこの世界をどう思う?」
「どうって……」
唐突で曖昧な質問に、テナが言葉に詰まる。
そんな彼女の反応を予見していたのか、エレナはそのまま言葉を続ける。
「例えば、病死、戦争、飢餓……。この世界には、なくなった方が幸せに暮らせるものがたくさんあるわ」
「……」
「それらをタカシ様の御力で消し去るの。そうすることで、人々はより豊かな暮らしができるようになり、結果として私のような不幸な存在がいなくなるわ」
「いやいやいや! 飛躍しすぎっすよ!? なんでそうなったっす!?」
「ふふー。エレナちゃんらしいねー」
迷いのないエレナの答えを聞いて、テナとルリイが苦笑する。
「とにかく、私はタカシ様を信じているの。彼の発想力、魔法技量、戦闘能力、配下統率力、経済力と政治力、その全てが私の想像を超えているわ。きっとこの世界に革命を起こすに違いない。そう確信したのよ」
「エレナっちが言いたいことは分かったっす……。つまり、ダダダ団を潰すのはその一歩ということっすね?」
「ふふふー。弱者へ暴力を振るうマフィアは、エレナちゃんが特に嫌いな存在だってことだねー? それに、もう一つの理由もありそうー」
「もう一つっすか?」
「上手くいけば、『三日月の舞』の名前がハイブリッジ男爵に届くかもしれないでしょー。そうなれば、エレナちゃんが彼の第九夫人になれる可能性が出てくるよねー?」
「ええっ!? エレナっち、ハイブリッジ男爵と結婚するつもりっすか?」
ルリイの言葉を受けて、テナが驚きの声を上げる。
エレナはタカシのことを好いているが、あくまで歴史に残りそうな偉人として尊敬しているだけだ。
そこに恋愛感情は存在しない。
少なくとも、テナにはそう見えていた。
「わ、わわわ私とタカシ様が結婚ですって? そ、そそそ、そんなことありえないでしょう!」
だが、エレナの反応はテナの予想とは異なっていた。
彼女は顔を真っ赤にして、明らかに動揺している。
しかも、普段と違って声のトーンが高い。
「ええっ? エレナっちがそんなに驚くことってことは、やっぱり……」
「ふふふー。図星ってやつだねー」
ルリイがニヤリと笑い、エレナを見る。
一方のエレナは、ルリイの言葉を否定するように首を左右に振っていた。
「わ、私とタカシ様が……? ああ、そんな……。だめですぅ……。あっ、奥様方が見てますよぉ……」
エレナは頭を抱え、妄想の世界へと旅立ってしまったようだ。
両手を頬に当て、恥ずかしそうに体をくねらせている。
「エレナっちが壊れちゃったっす……」
「エレナちゃん、だいじょうぶー?」
「……はっ! ごめんなさい。ちょっと取り乱したみたい」
エレナは我に返ると、申し訳なさそうな顔で謝る。
「まぁいいっすよ。それより、オレっちたちも協力するっす! エレナっちの夢のために、全力で頑張るっす!」
「ふふふー。もちろんわたしもー。ダダダ団をかるーく粉砕して、オルフェスからラーグに凱旋しようー」
「二人とも……、ありがとう」
エレナは仲間からの温かい言葉を受け、嬉しそうな表情を浮かべる。
そして――
「ダダダ団のアジトが見えてきたわ……。雑魚ばかりだと思うけど、油断は禁物よ! 確実に粉砕していくわ! この『紅杖・レーヴァテイン』から繰り出す火魔法でね!」
「ふふふー。わたしの雷魔法も負けないからー」
「オレっちも、土魔法で援護するっす! 『三日月の舞』が織りなす『三位一体』の攻撃は、絶対無敵っすから! 魔法を封じられない限りは!!」
3人は改めて気合を入れ直す。
そして、意気揚々とダダダ団の本拠地に向かっていくのであった。
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