ウォルフ村に到着して2日が経過した。
俺たちはこの村でゆっくりしている。
あと5日後ぐらいに借金の取り立て人が来る予定だそうだ。
俺たちが金貨500枚を立て替えるため、さほどの心配はない。
どんと構えておけばいいだろう。
「借金の取り立て人が来るまで時間があるなー。何かしたいな」
「そうですね。私は筋トレでもしていようかと思いますが。いっしょにどうですか?」
ミティがそう言う。
彼女は暇があれば筋トレをしている。
特によくしているのは、腕立て伏せだ。
ただの腕立て伏せではなく、背中に岩を置いた状態での腕立て伏せである。
「そうだな。それもいいな」
ミティとともに汗を流すのは、楽しい。
爽快感もある。
しかし、筋トレばかりで5日はもたないだろう。
「ふふん。せっかくだし、テイムの練習でもどうかしら?」
ユナがそう言う。
「テイム?」
「魔物や獣を使役して、戦闘や生活に役立てる技術だね。ボクは練習したことないけど」
アイリスがそう言う。
「ふふん。この村は、レッドウルフをよく使役しているわ。狩りにも役立つし、私たちの良きパートナーよ」
なるほど。
赤狼族というだけあって、レッドウルフと相性がいいのか。
この村に来るまでにレッドウルフと何度か遭遇したが、戦闘にはならなかった。
ユナがいたおかげなのかもしれない。
「い、いいですね。わたしも動物と触れ合いたいです」
ニムがそう言う。
他にも異論はないようなので、テイムの練習をしてみる方向で話を進める。
「ふふん。この村には、テイムを専門にしている人がいるわ。その人に紹介してあげる。付いてきて」
ユナがそう言う。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
みんなで、ユナに付いていく。
●●●
テイムを専門にしている人の家にまで来た。
5人家族でテイム関係の仕事をしているそうだ。
家の周りには、獣用の小屋や飼料などがある。
家の近くでは、狼型の魔物の世話をしている人が2人いた。
あの狼型の魔物がレッドウルフだ。
「ふふん。ちょっといいかしら? シトニ、クトナ」
「あら? ユナさんじゃないですか。お久しぶりですね」
シトニと呼ばれたほうがそう言う。
物腰の柔らかそうな人だ。
年齢はユナと同じくらいか。
「……久しぶり。こっちの人たちは……?」
クトナと呼ばれたほうがそう言って、俺たちを見る。
こちらは少し無愛想なタイプのようだ。
年齢はユナやシトニより下だろう。
シトニとクトナは、顔つきが似ている。
おそらく姉妹だ。
シトニが姉で、クトナが妹だろう。
「ふふん。こちらは私たちに大金を貸してくれる冒険者パーティ”ミリオンズ”のみんなよ」
ユナがそう言って、2人に俺たちを紹介する。
2人と俺たちであいさつを交わす。
やはり、シトニが姉でクトナが妹だそうだ。
彼女たちは5人家族だが、今いるのはこの2人だけ。
あと、両親と弟がいる。
今日は別の仕事があり、一時的に家を空けているそうだ。
「ふふん。それでね。彼らに、せっかくだからテイムを体験させてあげようと思って」
「……テイムは遊びじゃない……」
妹のクトナがぶっきらぼうにそう言う。
「ふふん。まあそう言わずに頼むわよ」
「いいじゃないですか、クトナ。だれでも最初は初心者なのですから。彼らの中に、テイムの才能がすごくある人がいるかもしれません」
「……うん……」
「それに、彼らは冒険者です。クトナが憧れている外の世界の話も聞かせてもらえるかもしれませんよ」
「……わかった。シトニ姉さんがそう言うのなら……」
お姉さんのシトニの言葉を受けて、妹のクトナがそう言う。
何とかテイムの基礎を教えてもらえることになった。
シトニとクトナの案内のもと、リラックスしているレッドウルフに近づいていく。
レッドウルフがこちらに気づき、鋭い目でこちらを見てくる。
「では、まずは頭をなでてあげてください」
「……くれぐれも優しくなでること……」
シトニとクトナがそう言う。
「少し怖いですね……」
「そ、そうだね。ボクもちょっと怖いかな……」
ミティとアイリスはレッドウルフにビビっているようだ。
気持ちはわかる。
俺もビビっている。
レッドウルフは本来は討伐対象の魔物だからな。
そんな俺たちを差し置いて、モニカとニムがレッドウルフに向かう。
彼女たちがレッドウルフに触れる。
「だいじょうぶだよー。モフモフしてて気持ちいいよ」
「そ、そうですね。人懐っこくてかわいい狼ちゃんたちです」
モニカとニムがそう言う。
彼女たちは、レッドウルフとあっさりと打ち解けているようだ。
「ふふん。やるじゃない! 2人にはテイムの才能があるかもしれないわね!」
ユナがそう言う。
たったこれだけで才能云々は早計なような気もするが。
少なくとも、モニカとニムに度胸があることは確かだ。
「ほら。あなたがたもやってみてください」
「……人に慣れているから、噛み付いたりはしない……」
シトニとクトナがそう言う。
「思い切ってやってみます……! むんっ!」
ミティがそう意気込む。
勢いよく手を伸ばす。
しかし。
「ぐうう……。がうっ!」
レッドウルフがそう威嚇する。
ミティを警戒しているようだ。
「そ、そんな……。どうして……」
「力み過ぎですね。緊張感がレッドウルフにも伝わってしまっているのだと思います」
「……もっと、自然体で接すればいい……」
愕然とするミティに、シトニとクトナがそう言う。
「自然体か。俺もやってみよう」
「ボクもやってみる」
俺とアイリスで、レッドウルフのナデナデに挑戦する。
「確かに、こういうのは意識し過ぎるとダメなんだ。あえてよそ見しつつ、さり気なく触れるような感じで……」
俺はそう行って、レッドウルフに手を伸ばす。
モフモフした感覚が手のひらを覆う。
無事にナデナデに成功したようだ。
「あっ。いいなー、タカシ。ボクだって」
アイリスがそう言って、レッドウルフに手を伸ばす。
彼女もナデナデに成功したようだ。
……が。
「がうっ! がうっ!」
レッドウルフが吠えながら飛び跳ねる。
テンションが上がっている。
「ちょ、ちょっと。どうしたのさ。きゃっ」
アイリスがレッドウルフにより押し倒される。
「がうっ! へっへっ!」
レッドウルフがアイリスの股間に顔をうずめている。
な、何をしている!
この畜生がぁ!
「や、やだあ!」
アイリスが顔を赤くして、身悶える。
シトニがレッドウルフをアイリスから引き離す。
「ご、ごめんなさいね。このレッドウルフは、発情期だったみたいです」
「……仕方のないこと。気にしないで……」
シトニとクトナがそう言って、その個体を少し離れたところまで追いやる。
ちょっとしたハプニングはあったものの、その後もテイムの体験を続けさせてもらった。
まあテイムというよりは、動物との触れ合い体験みたいなものだったが。
モフモフもなかなかいいものだ。
ラーグの街の自宅に、ペットを飼うのもいいかもしれないな。
その前に、執事・メイド・警備員などを雇うのが先だが。
今日の成果に基づき、俺たちのテイムの才能をまとめてみよう。
ミティ<アイリス≦タカシ<<ニム<モニカといった感じだ。
まあ、わずか1日だけで判断するのは気が早いだろうが。
今後、状況次第ではテイム関係のスキルの取得も検討してみよう。
ええと。
従魔術、召喚術、従属魔法あたりが関係していそうか。
モフモフにより癒やしが増えるし、戦力にもなる。
検討の価値は十分にあるだろう。
●●●
テイムの体験会の後、シトニとクトナの両親や弟も帰宅してきた。
夕食に誘われたので、遠慮なくごちそうになることにした。
食べながら雑談する。
「そういえば、クトナさん。村の外の話を聞かせてほしいと言っていましたね」
「……うん。私は、いつか村の外に出たい。あちこちを旅して回るんだ……」
俺の言葉を受けて、妹のクトナがそう言う。
彼女はややおとなしい性格だが、嗜好は外向きだ。
冒険者に向いているかもしれない。
「へえ。でも、それならユナやドレッドさんたちといっしょに”赤き大牙”で活動すればいいのでは?」
「ふふん。そう簡単な話ではないわ。クトナは、ライカンスロープの特徴が濃いからね」
ユナがそう言う。
そう言われてみると、確かにそうだ。
耳や歯など、狼っぽい特徴がクトナにはある。
「そうか。奴隷狩りに狙われるリスクがあるのだったな」
「ふふん。そうね。守れるだけの力があればいいのだけど。私やドレッド、それにジークは、まだ獣化の力を使いこなせないし……。使いこなせる人は、ライカンスロープの特徴が濃いし……。なかなかうまくいかないものね」
「ううむ。なるほどなあ」
クトナを俺たちミリオンズのパーティに誘ってみるのもありかもしれない。
奴隷狩りとやらがどれほどの戦闘能力を持っているものなのかはわからないが。
俺たちの戦闘能力ならば、守れないということはないだろう。
借金返済の件が無事に終われば、声をかけてみるか。
その後、クトナに俺たちの冒険譚をいくつか話した。
彼女は興味深そうに話を聞いてくれた。
そして、話題は別のものへと移る。
「ところで、お姉さんのシトニさんは、どんな夢があるの?」
アイリスがそう言う。
「ええと。私は、食っちゃ寝の生活を送りたいですねえ。レッドウルフたちをモフモフしながら、ゆっくりと昼寝したいです」
シトニがそう言う。
見た目はしっかりとしていそうなお姉さんだが、意外に欲望まみれの夢だった。
「……シトニ姉さんは、今でも似たような生活を送っているじゃない……」
「まあそうなのですけどね。結構忙しいですしねえ。だれか、大金持ちの人の玉の輿に乗れないものかしら」
シトニの気持ちは十分に理解できる。
大金持ちに見初められて、悠々自適の生活を送る。
人類共通の夢と言っても過言ではないだろう。
……いや、さすがに過言か?
そんな感じの雑談をしつつ、夕食を食べ進めていく。
今日は楽しい1日となった。
こんな日がずっと続けばいいなあ。
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