俺はネプトリウス陛下からいろいろと話を聞いている。
「なるほど……。海の精霊ですか」
「うむ。メルティーネは精霊に愛されておるからな。ファーストキスだけでも、海への適応力は相当まで高まる。しかしそれにしても、貴殿の適応力は常軌を逸しているように思えてな」
「そ、そうですかね……」
俺はしどろもどろになってしまう。
メルティーネと『そういう仲』になっていないのは本当だ。
ネプトリウス陛下の言う通り、彼女は身持ちが固い。
なかなかチャンスがなかった。
それに、一国の王女ということもあり、俺の方が遠慮していたという事情もある。
まぁ、その他の面々に関しては話は別だが……。
侍女リマ、治療岩責任者リリアン、そして魔道師団の分隊長。
具体的な進展度の差はあるものの、キス以上の仲にはなっていたりする。
「貴殿が女性人魚と親しくしていると、もっぱらの噂だ。真偽は如何に?」
「は、はい。仕事上の付き合いとはいえ、大変よくしていただいております。いやぁ、人魚族は優しい方々ばかりでありがたいですよ!」
俺は必死に誤魔化す。
メルティーネ王女に比べると精霊との親和性は下だろうが、リマやリリアンも十分にエリートだ。
親和性が全くのゼロというわけではあるまい。
そんな彼女たちと仲を深めたのだから……俺の海への適応力が上がるのも必然である。
何となく感じてはいたんだよ。
海の中での生活が、だんだん楽になってきたなぁと……。
しかし、そんな事実を正直に話すわけにもいくまい。
メルティーネのファーストキスをいただいただけでも、それなりに大事だったはず。
その男が、侍女、治療岩責任者、魔導師団分隊長などにまで手を出しているなど、とんでもないことである。
節操なしと激怒されるかもしれない。
「……ふむ。まぁよい」
ネプトリウス陛下が矛を収めた。
どうやら、俺への追及はひと段落したらしい。
「メルティーネとの仲はさほど進展しておるまい。もし奴の処女を散らしたのであれば、『海への適応力が高まる』というレベルに留まらず、もっとすごいことになるだろう。相手が貴殿ほどの強者であればなおさらだ。それこそ、ポセイドン様が目覚めて……」
「え? それってどういう……」
「おっと、つい口が滑ったな。今のは忘れてくれ」
ネプトリウス陛下が首を横に振る。
ポセイドンって……確か海の神だった気がするが……?
俺が拠点としている『海神の大洞窟』に空気が満ちていたのは、海神ポセイドンの息吹が生み出したものだとか何とか……。
いや、あれはただの自然現象に尾ヒレがついたものかもしれないが。
「しかし、貴殿のような強者が友好的に接してくれるのであれば、我々人魚族としても心強い」
「はっ! もったいなきお言葉、ありがとうございます」
「いずれは、人族の国々とも交流を持っていきたいものだな」
「はい。そのときは、ぜひ協力させていただきたいと思います」
俺はネプトリウス陛下に頭を下げる。
友好的な関係を築けて良かったと思う。
国としてはやや小さな集団とはいえ、やはり一国の王だ。
粗相をしたりしたら、外交的にマズイことになりかねないところだった。
「それで、エリオット殿下とメルティーネ王女は……」
「そろそろ来てもおかしくないはずだが……。やけに遅いな。奴らめ、客人を待たせおって……」
ネプトリウス陛下が顔をしかめた。
リトルクラーケンなどの後処理の指示をしているらしいが……。
それにしても遅い。
何かトラブルだろうか?
「し、失礼いたします!」
玉座の間へと駆け込んでくる者があった。
伝令の兵士だろうか?
「何事か! 今は客人と会談中であるぞ!!」
ネプトリウス陛下が叱責する。
だが、その兵士は真っ青な顔をしていた。
「く、クーデターです! クーデターが発生しました!」
「なっ!?」
「なんだと!?」
俺と陛下は、揃って驚愕した。
まさか、こんなタイミングでクーデターが発生するとは……!
エリオット王子とメルティーネ王女は無事なのか!?
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