休憩中。
俺は海ぶどうを堪能した。
しかし一方で、俺以外の面々は生魚を食べている。
「美味そうだなぁ……」
俺は少し興味をそそられた。
サザリアナ王国にも魚は存在する。
だが、生で食べる文化は存在しないのだ。
海洋都市ルクアージュで食べた寿司はあくまで例外的な存在だし、寿司としての再現度も怪しい感じだった。
「おい兄ちゃん、興味本位ならやめときな。人族は生魚を食べないんだろう?」
「まぁそうだが……」
「無理せず、海ぶどうを食っとけ。1日の作業が終われば、魔道具で加熱処理した魚を用意できるはずだ。生魚に挑戦する意味はねぇ」
「うーむ……」
生魚を食べる文化と、食べない文化。
この二つは水と油だ。
サザリアナ王国において、前者は多数派であり、後者はマイノリティである。
俺が海ぶどうを食べて満足し、生魚を食べるのを止めるのが合理的な判断だろう。
(だが……)
俺は、生魚を食べる戦士たちを見やる。
彼らは、実に美味しそうに生魚を食べていた。
そのままかぶり付くのではなく、刃物で加工済み。
まるで、刺し身のような雰囲気がある。
(良いんじゃないか? 別に)
俺はそう思った。
人族の常識に囚われて、せっかくの海の幸を楽しめないのは勿体ないことだと。
「忠告ありがとう。だが、せっかくだし挑戦してみることにするよ」
「おいおい……。本気かよ……」
俺の言葉を聞いて、俺を引き留めていた作業員が驚いた表情を浮かべる。
しかし、俺の決意は固い。
「おーい、俺も生魚を食うぞ!」
俺は海ぶどうを食べ終えると、そう宣言する。
そして、生魚を食べている戦士たちのところへ向かった。
「お! 兄ちゃんも生魚に挑戦するのか!?」
「ああ。海ぶどうは十分に堪能したからな」
俺は答えながら、戦士たちの輪に加わる。
すると、数人が懸念を示した。
「おいおい! 人族が生魚なんて食って、腹壊しても知らねぇぞ?」
「過去にも生魚――刺し身に挑戦した人族はいたらしいが……。体が受け付けなかったと聞いている」
「お前もそうなる前に、海ぶどうのおかわりでもしに行ったらどうだい?」
「ふむ……」
俺は刺し身を食べている戦士たちを見る。
どうやら全員、俺が刺し身を食べられるとは思っていないようだ。
「いや、俺は大丈夫だ。俺にも分けてもらっていいか?」
「お、おう。それはいいけどよ……」
俺が言うと、一人の作業員が刺し身の塊を差し出してくれる。
俺はそれを受け取ると――かぶりついた。
「うぐっ!?」
「おい、兄ちゃん。本当に大丈夫か!?」
「う……! ううう……!!」
俺の様子を心配した作業員が、俺の背中をさすってくれる。
しかし俺はそれどころではなかった。
(こ、これは……!!)
人魚族が日常的に食べている生魚――刺し身。
それがこれほどまでに……。
これほどまでに……!!
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