「あなたは……?」
「私は轟砂丘の案内人。あなたに、砂丘を案内して差し上げましょう」
「いえ、結構です。先を急いでいるので」
レインは即答する。
轟藩の西部で2か月を過ごしたのは、あくまで様子見のためだ。
桜花藩方面へ向かうと決めた以上、ダラダラと移動するつもりはなかった。
「遠慮なさらずとも結構です。私は、案内人としての誇りがありますから。『適性者』の可能性のある者には敬意を持って案内することにしています」
「えっと……本当に案内なんて必要ないのですが……」
レインは困惑していた。
この女性の意図が分からない。
話し込むより、さっさとこの場を離れるべきかもしれない。
「それでは、失礼しますね」
「お待ちください」
「待ちません」
レインは女性の脇を通り抜ける。
そのまま、さっさとこの場を離れようとしたのだが……。
「【だるまさんが転んだ】」
「……え?」
レインの体がピタリと止まる。
まるで金縛りにあったかのように指一本動かせない。
「な、なんですか、これは……」
「ふふふ……。さぁ、私と遊びましょう」
「ふざけないでください!」
レインは声を荒げる。
しかし、その体は動かないままだ。
「轟砂丘の案内人たる私は、あなたに『だるまさんが転んだ』で勝負を挑みます」
「意味が分かりません!」
「もちろん、あなたが勝てばそのまま通行してもらって結構です。しかし、私が勝ったら適性調査を受けていただきます」
「適性調査……?」
レインが怪訝な表情を浮かべる。
何から何まで、よく分からない。
ただ、女性が不可思議な能力を持っていることだけは確かだ。
魔法――あるいは妖術の一種かもしれない。
相手方の要求を突っぱね続けるのは、あまり得策ではないように思えた。
「分かりました。勝負を受けましょう」
「ふふ……話が分かる方で助かります」
女が微笑む。
それと同時に、レインの体は自由を取り戻した。
「それで? 『だるまさんが転んだ』という勝負のルールは?」
「あら、ご存じないのですか? 『だるまさんが転んだ』とはですね……」
女性がレインにルールを解説する。
端的に言えば『鬼が”だるまさんが転んだ”と言い終えるまでに他者が鬼へ近づきていき、振り向かれた瞬間には動きを止める遊び』だ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!