ハイブリッジ家騎士爵家のトーナメントが行われている。
「さあ! 次の試合に移ります! 前評判を跳ね除けて準決勝まで駒を進めました、ヴィルナ選手! 対するは、本大会のきっかけをつくりましたナオン選手です!!」
「「おおおおぉっ!!」」
観客の歓声が上がる。
「ヴィルナさん! がんばってください!」
「応援してるぞ! ヴィルナ!」
選手控え席のヒナやキリヤがそう声援を送る。
「はい! 全力を出します!」
ヴィルナは気合充分だ。
「ナオン隊長! 我ら騎士団の意地を見せつけてやってください!」
「この街で我らの力を活かしていくためにも、まずは隊長のお力を存分に知らしめましょう!!」
ナオンの部下たちがそう激励する。
「ああ。任せておいてくれ。騎士の誇りにかけて、勝利を掴んでくる!」
彼女がそう言う。
こちらも試合に向けて集中力は高まっているようだ。
「では、両者準備はよろしいでしょうか? …………始めぇ!!!」
盛り上がりを見せる観客の空気に包まれつつ、ついに戦いの火蓋が切られた。
「やあやあ! 我こそはナオン! いざ尋常に勝負せよ!」
彼女がそう名乗りを上げる。
懲りないな。
一回戦ではオリビアに、二回戦ではクリスティに無視されていたのに。
「あ、これはご丁寧にありがとうございます。私はヴィルナと申します。よろしくお願いしますね」
ヴィルナは律儀だ。
ちゃんと挨拶を返している。
「ほう。礼儀正しいではないか。気に入ったぞ」
「いえ、そんなことはありません。当然のマナーですから」
「謙遜はいらん。さあ、早く始めるとしよう」
「そうですね。観客の皆さんも待ってくれているようですし」
二人が構える。
この二人は礼儀正しいし、結構相性がいいかもしれないな。
「いくぞ! はああぁっ!」
先に仕掛けたのはナオンだ。
闘気による肉体の強化を済ませ、一気に間合いを詰める。
そして、その勢いのまま剣を振り下ろす。
しかし、それは読まれていたようで、ヴィルナにより躱されてしまった。
そして、ヴィルナが反撃に出る。
「負けませんっ! 閃光連突!!」
細剣による連続突きが、ナオンを襲う。
「ぐっ……。なかなかやるな……」
彼女の鎧には小さな傷がいくつか付いている。
ダメージはあるようだが、まだ致命的ではない。
「だが、まだまだこれからだ!!」
ナオンが気合を入れる。
その後も、一進一退の攻防が繰り広げられる。
ナオンが強いのはわかっていたが、ヴィルナも奮闘している。
「やっ! はあっ!!」
「くっ。しぶとい奴め……。そろそろ決めるか」
ナオンが闘気の出力を上げる。
「これが我が奥義! 受けてみろ!!」
そして、彼女はそれを放った。
「亜空斬撃!!!」
なんという威力だろうか。
衝撃波が地を駆け抜け、土煙を巻き上げる。
「はあ、はあ、はあ……。やったか!?」
ナオンの息が上がっている。
相当に闘気を消耗する技だったらしい。
「あ、危ないところでした。どうにか獣化が間に合ってよかったです……」
ヴィルナは間一髪回避に成功していたようだ。
『銀兎族獣化』の状態になっている。
「バ、バカな……。私の奥義を避けるとは……」
ナオンが愕然としている。
「はあっ、はあっ……! キ、キツイですね……。連続の獣化は……」
ヴィルナはヴィルナで、息がとても上がっている。
獣化術は、闘気や体力の消耗が激しい。
彼女は前の試合でも獣化の技を使っていたし、もはや体力は風前の灯火か。
「両者、体力を著しく消耗しているぞーっ! 根性を見せるのは、今しかない!!」
ネリーが叫ぶ。
「ぐぬぬぬぬ。騎士として、ここで負けるわけにはいかないのだ! 疲れが何だ!! フルパワー! 気合いだ!!!」
ナオンが必死に自分を鼓舞する。
足がプルプルしている。
「私だって、最後まであきらめません!! ハイブリッジ騎士爵に願いを叶えてもらうために!!」
ヴィルナの瞳にも、闘志がみなぎっている。
俺の褒美が目的なのか。
いったい何をお願いされるんだろう?
ちょっと怖いな。
「行くぞ! うおおおぉっ!!!」
「はあああぁっ!!!」
二人がぶつかり合う。
ここまで来たら、もはや小手先の技術など関係ない。
ただただ、力の限りぶつかるのみだ。
しばらくは、ただの殴り合いが続く。
そして……。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……。くそっ! 限界か……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。わ、私も、もう力が……」
バタッ。
二人が同時に倒れ込む。
「おおっと、これは!? 両者ダウンです!」
ネリーがそう叫ぶ。
彼女がカウントを進めていく。
「……10カウント! 引き分け……と言いたいところですが、この大会に引き分けの規定はありません! ハイブリッジ騎士爵様、どうしましょうか?」
ネリーがそう聞いてくる。
普段の彼女は俺のことを”タカシさん”と呼ぶのだが、公の場では”ハイブリッジ騎士爵様”と呼ぶ。
少し距離を感じるので、あまり好きな呼ばれ方ではない。
「ふむ。では、単純に考えよう。先に立ち上がった方を勝ちとする」
俺はそう言う。
「承知しました! さあ、ヴィルナ選手とナオン選手、今のお言葉を聞いておられましたでしょうか!? 先に立ち上がり、”私の勝ちだもんねー”と言った方が勝ちとなります!!」
ネリーがそう言う。
条件が勝手に付け加えられているな?
まあいいけど。
「うう……」
「ぐぬぬ……」
ヴィルナとナオンが、それぞれ最後の力を振り絞って立ち上がろうとしている。
両者、片膝をついた状態まで体を起こしている。
そして……。
「ずあああぁっ!!!」
ナオンが大きな叫び声を上げ、立ち上がった。
ヴィルナはまだ立ち上がれていない。
「わ……」
ナオンが口を開く。
これは彼女の勝ちで決まったか。
「私の勝ちだもんn……」
彼女がそこまで言ったところで、言葉は途切れた。
ふらっ。
バターン!
彼女がステージ上に倒れ込んだ。
全ての力を使い尽くして、気絶してしまったようだ。
そうこうしているうちに、ヴィルナが何とか立ち上がった。
「わ、私の勝ちだもんねー! です!!」
彼女が大声でそう宣言する。
「そこまで! 勝者、ヴィルナ選手!!!」
「「「うおおおおおっ!!!!」」」
会場中から歓声が巻き起こる。
彼女が疲れ切った様子で控え席にまで戻ってくる。
「ふっ。がんばったな。ヴィルナ」
「はい……。相手の体力がギリギリでなくなって、助かりました。それに、キリヤくんの応援も力になりましたよ」
ヴィルナがキリヤとそんな会話をしている。
一方の気絶したナオンには、サリエが治療魔法を掛けてくれている。
彼女も相当に強力な戦闘能力を持つし、根性がある。
性格も悪くはなさそうだ。
今後の活躍に期待できるな。
さあ。
次が決勝だ。
はたして願いを叶える権利を得るのは、どちらになるだろうか。
見守ることにしよう。
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