「お母さん……今日も頑張ってくるね」
私は小さな仏壇の前で手を合わせる。
私のお母さんは三年前、魔物に襲われて死んでしまった。
お父さんはそれよりもっと前にいなくなっている。
詳しいことは分からない。
「さて……と」
身支度を整えた私は家を出る。
私はまだ12歳。
子どもの私に、村での仕事はほとんど回ってこない。
だから、危険な山菜採りや小動物の狩りに出かけることが多い。
「今日も……頑張らないと……」
私は家を出る。
そして、村を出ようとしたところで呼び止められた。
「へへっ……。おい、紅葉(もみじ)」
「っ!」
名前を呼ばれ、私は振り返る。
そこには、二つ年上の男の子が立っていた。
彼は村のガキ大将。
いつも私をいじめてくる嫌な奴だ。
少し前から大人に混じって仕事をこなすようになり、態度がますます大きくなっている。
そんな彼が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
「お前、今日も山菜採りに行くんだろ?」
「……だったら何ですか?」
私はできるだけ冷静に、礼儀正しく返事する。
心証を悪くしちゃダメだ。
年は近くても、彼は村長の息子。
親のいない私なんかが逆らったら、村で生きていけなくなる。
「へへっ……。山菜採りなんかより、もっといい仕事を紹介してやるよ。そろそろ頃合いだからな」
「頃合い? ……どんな仕事ですか?」
「それはな……」
ガキ大将が私に顔を近づける。
彼はニヤニヤしながら、私の胸を鷲掴みにした。
「きゃっ!」
私は思わず、悲鳴を上げてしまう。
そんな私の反応に、彼は気を良くしたらしい。
「へへっ……。まだまだガキだが、少しは成長してきたんじゃねぇか?」
「な、何するの!」
「へへっ。何をって、イイコトさ」
彼は私の耳元で囁く。
その声が、本当に気持ち悪くて鳥肌が立った。
「い、嫌だ! 離して!!」
「いいのか? もう食べ物を分けてやらねぇぜ?」
「っ!」
私は言葉に詰まる。
山菜採りや小動物の狩りで、私は食いつないできた。
でも、十分じゃない。
ときどき、彼の父である村長さんから食料を分けてもらっていた。
「へへっ。ほら、俺について来いよ」
「い、嫌よ! 離して!! 村長さんに言いつけるから!!」
「親父もこのことは知っているさ。穀潰しのお前を食わせてきたのは、俺の練習相手にするためだ」
「そ……そんな……」
私は愕然とする。
食べ物をもらえて、感謝していたのに……。
「ほら、黙ってついて来な。なぁに、俺が飽きたら他の奴に下げ渡すさ」
「ひっ……」
「そいつらも飽きたら、街の遊郭にでも売り飛ばそうか。いい小遣い稼ぎになりそうだ。……ま、それまで俺の相手をしてくれや」
「い、嫌! いやぁっ!!」
私は抵抗するが、ガキ大将は私を無理やり引きずっていく。
村の外れまで連れていかれて、私は絶望した。
「へへっ。じゃあ、お楽しみといこうか……」
ガキ大将が私に手を伸ばす。
本当に気持ち悪い。
「い、嫌……。あんたなんかに……。嫌ぁっ!!」
私は力を振り絞る。
そして、彼の股間を蹴り上げた!
「うぐぉっ!?」
ガキ大将は股間を押さえてうずくまる。
よしっ!
この隙に逃げよう!!
私は駆け出す。
「て……てめぇっ! こんなことして、どうなるか分かってるのか!!」
「っ!」
「村にお前の戻る場所があると思うなよ! 森で魔物にでも喰われちまえ!!」
ガキ大将が叫ぶ。
その脅し文句に、私はゾッとした。
でも、今は逃げないと……。
私は無我夢中で、森に向かって駆けていくのだった。
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