ハイブリッジ杯の表彰式を行っている。
一回戦負けの面々に参加賞と労いの言葉を贈っているところだ。
レインから思わぬ告白を受け、その後ネスターに労いの言葉を掛けた。
次は……。
「セバスか。想像以上の戦闘能力に驚いたぞ」
彼はハルク男爵家に代々仕える戦闘執事の家系だったそうだ。
彼の親戚であるセルバスはまだ現役のはずである。
「ほほ。昔取った杵柄です」
「謙遜するな。一回戦も、ヴィルナに勝ちを譲ったようなものだったじゃないか」
俺はそう言う。
セバスには多少の余裕があった。
全力を出せば、勝っていたのは彼だった可能性が高い。
「後進を適切に導き指導するのも年長者の役割でございます」
……ふむ。
いい心がけだな。
「何か望みがあれば叶えてやろうか?」
セバスは優勝したわけではない。
無制限に望みを叶えるわけにはいかない。
しかし、多少の褒美ぐらいは与えてやりたい。
セバスは分別があるし、無理難題は言わないだろう。
「ほほ。そのようなものは不要です。……と言いたいところですが、一つだけよろしいでしょうか?」
セバスがそう言う。
遠慮して何も言わないかと思っていたのだが……。
少しだけ意外だな。
何を望むのだろうか。
「もちろんだ。言ってみろ」
「私からお館様、そしてハイブリッジ騎士爵家への忠誠を受け取っていただきたいのです」
「……む? それはどういう意味だ? セバスから忠誠心は普段から感じているところだが」
彼はよくやってくれている。
執事としてハイブリッジ家の家事全般の取りまとめを行いつつ、さらには俺の領主としての仕事を一部代行してくれている。
彼の能力には全幅の信頼を置いている。
「いえ。もちろん仕事には全力を出させていただいておりますが、今までの私はあくまでも雇われ執事としての意識で仕事をこなしておりました。私の一族が代々仕えてきたハルク男爵家の顔に泥を塗らないためでもありますな」
「ふむ。それで?」
「しかし、お館様のお傍で仕事をしていく内に、私の思いは大きく変わりつつあります。正直に申し上げまして、お館様は現状の騎士爵だけでは収まらない器だと感じています。このまま一生お仕えしたいと思えるほどに、お館様には大きな魅力を感じているのです」
ほう!
これは嬉しいことを言ってくれる。
俺も彼を信頼していた。
彼ならば、これから先もずっとハイブリッジ家を一緒に盛り立てていけると確信できる。
そんな人物からここまで言われるとは……。
よしよし。
「わかった。セバスの忠誠を受け取ろう」
「ははっ! では、こちらをお納めください」
セバスが懐から何かを取り出し、俺に差し出した。
「おお。美しいな。これは……何かの角か?」
「はい。竜化時の私の角ですな。忠誠を誓った者に渡す伝統があります」
セバスの話では、角は主従契約の証でもあるらしい。
これを渡されたということは……。
「ありがたく受け取ろう。今後もよろしく頼むぞ、セバス」
「はっ!」
これでセバスとも新たな関係が始まったということだな。
…………む!?
セバスが加護(小)の条件を満たしているな。
もともと高めだったところに、今の儀礼が決定打となったようだ。
後で付与しておこう。
さて。
次だ。
「タカシの旦那ぁ……。一回戦負けで、不甲斐ない姿を晒しちまいましたね……。すんません……」
トミーがそう言って頭を下げた。
「気にするな。相手のハナがうまく戦っていただけだ」
俺は彼に声を掛ける。
「へぇ。しかし、まさかあそこまで差があるなんて思ってませんでした……。くそっ。ハナの奴は、俺と同じCランクなのに……」
「まあ、対人戦には相性というものがあるからな。魔物狩りや未知の領域の探索では、また違った能力が必要となる。トミーには期待しているぞ」
「はい。がんばりやす。それで、配下登用の件は……」
「うむ。こちらからお願いしたいくらいだな。他の面々とも合わせて発表するから、少しだけ待っていてくれ」
「おおっ! 了解しやした!」
トミーが嬉しそうな顔をする。
忠義度も順調に上がっている。
後もう一つ何かきっかけがあれば、彼にも加護(小)を付与できそうだな。
さて。
次は……。
「オリビアもなかなか健闘していたな。たまにファイティングドッグ狩りを行ってくれていたし、強いのは知っていたが」
「はい。サリエお嬢様をお守りするため、最低限の戦闘の嗜みはあります。王都騎士団の小隊長殿には敵いませんでしたが」
「それは仕方ない。ナオンの実力は本物だった。オリビアは十分に戦ったよ」
「はっ! もったいないお言葉です」
実際、彼女は結構強い。
彼女もセバスも、Cランク冒険者並みの戦闘能力があるのではなかろうか。
以前、ハルク男爵が私兵を率いて俺の屋敷を訪問してきたことがある。
難病に苦しむサリエの治療のために俺の力がいるとのことで、やや強引に要求を突きつけられた。
ミティにより私兵たちはあっさり撃破されたわけだが、あのときにセバスやオリビアがいればまた違った結果になっていたかもしれないな。
さて。
一回戦負けの者への労いの言葉も、次が最後だが……。
「ユキか。なかなかの水魔法、それに武闘だったぞ」
「……うん。負けちゃったけど、まあまあだったかな……」
ユキがそう言う。
相変わらず無表情で感情がよく掴めない。
「クリスティとの仲はどうだ? 試合中に煽り合いをしていたようだが」
「……あれは、試合中のこと。そんなのを引きずるほど、お互い子どもじゃない」
「そうか。それもそうだな」
ミティやニムも、強い言葉で相手を挑発したり威嚇したりすることがある。
日常の関係にまで悪影響を与えないのであれば、特に気にする必要はないだろう。
「それで、登用の方は……」
「ぜひお願いするつもりだ。ツキやトミーにも言ったのだが、まとめて発表させてもらう」
「……それはよかった。これで、不安定な冒険者稼業からもおさらば……」
ユキがそう言う。
Cランク冒険者という時点でそれなりに稼いでいるはずだが、不安定さは否めない。
「これからも、ツキやハナとともに三姉妹で活動してくれるとありがたい」
「……うん。ボクはそのつもり。でも、姉さんたちは少し違った思惑があるかもね……」
ユキはそんな意味深なことを言い残して、下がっていった。
ツキの思惑は、俺の妻になることだろう。
ただの配下よりも権限が増すことを狙っているはずだ。
ハナの思惑は何だろう?
彼女はツキほどにはがっついていなかったような印象だが。
三姉妹の内、ハナだけは二回線に進出している。
この後に労いの言葉を掛けるときに、少し探ってみるか。
「ツキ、ヒナ、レイン、ネスター、セバス、ハナ、オリビア、ユキ。以上の8名の奮戦をここに称えるものとする! この街、そして我がハイブリッジ騎士爵領の発展に貢献してくれることだろう! 期待していてくれ!!」
俺がそう宣言すると、皆が一斉に礼をする。
「「「うおおおおぉっ!!」」」
観戦客から歓声が上がる。
「さらに、この場のツキ、トミー、ユキの3名については、新たにハイブリッジ家に登用することになった! 職務内容は引き続き冒険者活動となる! これからも、発展や治安維持に力を貸してほしい!」
俺はそう叫ぶ。
仕事自体は変わらずとも、貴族の配下の認定を受けることで社会的地位が向上する。
また、安定して生活を送ってもらえるよう、仕事内容に関わらず固定給を支払うような実態となるだろう。
「私の忠誠をハイブリッジ騎士爵に捧げるわ」
「タカシの旦那に一生付いていきやす!」
「……うん。ボクも精一杯がんばる……」
ツキ、トミー、ユキがそう言う。
この3人の忠義度は、いずれもなかなかの高水準だ。
いずれ加護(小)を付与できる日も来るだろう。
「「「おおおおおぉっ!!!」」」
観戦席から拍手喝采が起こる。
有能な高ランク冒険者がこの街に拠点を置くのは、街の人々にとっても利がある。
喜ぶのは当然の反応だ。
俺は満足げにそれを眺める。
さて。
続いては、ベスト8に残った者たちの表彰だな。
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