「何か考えがあるのか?」
「櫛名田比売は、植物妖術使いとの親和性が高いという情報があります。私と樹影さんを中心に編成した部隊で現地に向かい、新たな適性者の加護の力を少しでも削げればと……。機会があれば適性者をそのまま撃滅し、翡翠湖藩を平定します」
その言葉には、怯えも曖昧さもなかった。
ただ、冷静な戦略と確固たる意志だけがある。
「紅葉と樹影を中心にした編成か……。まぁ部隊として動くなら、紅葉が極端に危険なこともないか」
俺の中に生まれた懸念は、彼女の覚悟に触れることで少しずつ和らいでいく。
「よし、許可しよう。だが、くれぐれも無理はしないようにな」
「お任せください!」
紅葉が頷く。
その瞳には一分の曇りもなく、真っ直ぐな決意が宿っていた。
まるで未来の一点を見据えるかのように、揺るぎない光が宿っている。
その目を前にして、誰が「危険だから城で大人しくしていろ」などと言えるだろう。
寒村で過酷な運命に翻弄され、俺の旅に付き従い、桜花七侍との戦いも経験した少女。
もはや、温室の花などではない。
土に根を張り、風に晒され、それでも美しく咲き誇る花となった。
時は来たのだ――己の意思で道を選び、力を行使する。
その資格が紅葉にはある。
「翡翠湖に対する方針は決まった。次は……そうだな。虚空島についてはどうなっている? 何か情報はあるのか?」
声の調子を戻しつつも、内心では一抹の不安が渦巻いていた。
翡翠湖の件は想定の範囲内だったが、虚空島は別だ。
その名を聞くだけで、どこか心がざわつく。
正体不明の場所に対する本能的な警戒。
そんな空気が、会議の場を支配し始める。
「情報はないぜ。なにせ、空に浮く島だからな。浮島に潜入する方法なんてないし、その下にはただの山脈地帯が広がるだけだ」
流華が肩をすくめて苦笑する。
その仕草には、己の力でもどうにもならない歯がゆさがにじんでいた。
「浮遊島か……。俺が重力妖術で飛んでいくのはどうだろう?」
軽く言ってみせたつもりだった。
けれど、どこかでそれが実現不可能であることも察していた。
「無理だ。妙な妖気が漂っていたからな。この桜花城と同等――いや、それ以上の結界が張ってあるらしい。その地にも神がいるという噂を聞いた」
神。
たった一文字のその存在が、場の空気をぐっと重たくした。
人の力では測れぬ何かが、確かにそこにあるという現実。
翡翠湖だけでなく、虚空島にも何らかの神が関与しているというのか。
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