「いてて……」
「くっ、あのクソ女どもめ……よくも……」
トミーとアランがようやく起き上がってきたようだ。
二人はぶつくさ文句を言いながら、俺の前にやってきた。
「タカシの旦那、申し訳ありやせん」
「我が神にあの女を献上することができませんでした」
二人が頭を下げてくる。
フレンダのパーティメンバーに妨害され、ナンパが失敗してしまったことの謝罪だろう。
「問題ない。その気持ちだけでも十分だ」
そもそも、俺は『ナンパしてこい』という指示を出してはいないのだが。
まぁ、ここまで来ればそれを言う必要はないだろう。
せっかく俺のために動いてくれた彼らの気持ちを無下にすることもあるまい。
「おお……」
「寛大なお言葉、感謝いたします!」
トミーとアランが感動の声を上げる。
どうやら、彼らの中で俺の評価が上がったらしい。
ふふふ……。
もっと崇め奉ってくれてもいいのだぞ。
俺は彼らを労うために、もうひと押しすることにした。
「どれ、その傷を癒やしてやろう。――【ヒール】」
トミーとアランの頭部を淡い光が包み込む。
これは初級の治療魔法だ。
俺の治療魔法の腕であれば、タンコブぐらいなら一瞬で治すことができる。
「あ、ありがとうございやす」
「素晴らしい効き目でございます!」
よしよし。
これで二人の忠義度は微増した。
今の忠義度は38。
加護(小)が着実に近づいてきている。
本当に、もうあと一歩だ。
「ハイブリッジ男爵、参加者が揃ったみたいよ」
「分かった。報告ありがとう、月」
いつの間にか、月が傍に来ていた。
彼女の報告を受け、俺は改めて周囲を見渡す。
そこには、三十名以上の冒険者の姿があった。
『雪月花』、トミーたち『緑の嵐』、アランたち『紅蓮の刃』、フレンダたち一行。
その他、たくさんの冒険者が参加している。
「では、これより狩りを始める! その前に、みんなに聞いてほしいことがある!」
俺は宣言するように言った。
「ラーグの街の西部に位置するこの森は、昔から魔物や薬草が豊富な場所として知られている。十年以上前には、奥地にある山岳地帯の天然温泉も利用されていたそうだ。恩恵は多々受けている。しかし同時に、森から溢れた魔物が街を襲うことがある危険な地域でもある」
俺がそう言うと、みんなにざわめきが広がった。
「そうだ……そうだ……!! 俺の家族も、2年前の件でケガを……」
「木こりだった俺の爺ちゃんは……森でリトルベアに襲われた!」
「救いは……俺たちに救いはねぇのか!? 家族が魔物に脅かされない平穏な暮らしがほしい!!」
冒険者の中に、そんなことを叫ぶ者が出始めた。
チートの恩恵を多大に受けている俺からすれば、魔物は大した脅威ではない。
倒すことでレベルが上がりスキルを強化できるし、素材を売れば金にもなる。
俺個人のことだけを考えるならば、各狩り場の魔物は全滅させず、適度に残しておくのもありだ。
しかし、領民のことを考えるとその選択肢はない。
一般人にとってリトルベアは単体でも脅威だし、ゴブリンの群れやクレイジーラビットあたりも危険性が高い。
2年前、俺がゾルフ砦を訪れている間には、この街の中へ魔物が入り込むという事件が発生した。
モニカとその父が営んでいたラビット亭が壊滅的な被害を受け、俺やミティでその復旧作業を手伝ったこともある。
今となってはいい思い出だが、一歩間違えれば悲惨な結末に繋がっていたかもしれない。
チャンスがあるならば、魔物は全滅させておいた方が領民にとって有益だ。
「知っている者がほとんどだと思うが、ここから西部でリンドウという街を開発中だ。そして、この森はラーグとリンドウの道中にある」
俺の言葉を聞き、みんなの表情が引き締まる。
「ラーグとリンドウ、そしてハイブリッジ男爵領全体の発展のために、西の森の魔物を掃討する必要がある。異論のある者はいるか?」
俺の問いかけに対し、冒険者たちは静まり返った。
反論する者はいないようだ。
「森から溢れ出た魔物により、住民に被害が出たこともある。魔物は脅威だ。だが、実力のある冒険者諸君であれば、問題なく倒せるはずだ。まさかとは思うが、日和っている奴はいるか?」
俺の問いかけに、誰も反応しない。
「いねぇよなぁ!?」
「「「おおおおぉっ!!!」」」
冒険者たちが雄叫びを上げる。
日和っている奴はいないらしい。
士気は十分だ。
「ま、魔物を全部ぶっ殺したら……家族で温泉に行きてぇなぁ……」
冒険者からそんな声が漏れる。
ここは、士気をもうひと押ししておくか。
「行けば善し!」
「邪魔な木々……切っていいんスかァ!?」
「切れば善し!!」
「家族と……森にピクニックに来てもええのか!?」
「ピクれば善し!!!」
俺は冒険者たちを鼓舞するべく、力強く叫んだ。
「よし! それじゃあ行くぞ!! 全員、出発だ!!!!」
「「「おおおおおおーッ!!!!」」」
俺たちは戦意をむき出しにして、森の中に入っていく。
こうして、『西の森での魔物大掃討作戦』が始まったのだった。
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