俺は予期せぬ追加搭乗者の存在を完璧に把握した。
アイリスに憑依した、幽霊のゆーちゃん。
ユナにテイムされている、ファイアードラゴンのドラちゃん。
リーゼロッテを餌付けした、古代アンドロイドのティーナ。
以上の3名――正確に言えば1霊1竜1ロボが追加搭乗者である。
「さて……。追加人員が明らかになったところで、久しぶりのミリオンズ会議と行こうか」
俺はそう告げる。
ミリオンズ会議。
その名の通り、ミリオンズのメンバー全員で会議をすることである。
リーダーである俺が音頭を取って、定期的に実施していた。
前に実施したのは、聖女リッカが襲撃してくる少し前ぐらいか。
およそ2か月ほど前だな。
この会議においては、スキルやミッションなどといった機密性の高い内容を口にすることになる。
これまでは、周囲に誰もいないことを確認した上で宿屋なり自邸なりで行っていた。
今回の会議において、その点は心配無用だ。
なにせ、隠密小型船で大海原を航海中だからな。
しかも、海上は嵐の最中であり、俺たちの船は潜水している。
ある意味では、これ以上ないくらい機密性の高い場所で会議ができる。
「いいと思います。ヤマト連邦へ潜入していく前に、スキルを共有しておいた方が良いでしょう」
「同感ですわね。わたくしも、自分の能力を把握しておきたいと思っていたところですわ」
サリエとリーゼロッテが言う。
他の面々も異論はないようだ。
「では、さっそく始めよう。まずはミッションの件だ」
「ミッションと言いますと……。確か、かなり前に提示されたものがありましたね?」
「ああ。『ヤマト連邦を訪れよう』というミッションだな」
サリエの言葉に俺は頷く。
そして、みんなに見えるようメモを掲げた。
ミッション
ヤマト連邦を訪れよう。
報酬:スキルポイント20
「このミッションは、当たり前だが未達成のままだ」
「ええ。なにせ、わたくしたちは今まさに、ヤマト連邦に向かっている最中ですもの」
俺の言葉を受け、リーゼロッテがそう発言する。
「その通りだ。だが、このミッションについて、少し思うところがある」
「と仰いますと?」
今度はサリエが聞いてくる。
今回のミリオンズ会議では、リーゼロッテとサリエが積極的に発言しているな……。
2人とも生まれながらの貴族だし、重大な任務を前に色々と考えているのだろう。
「ヤマト連邦ってのは、具体的にどこを指すのかってことだな。それによって、ミッションが達成扱いとなるタイミングは変わってくるだろう」
「なるほど……。盲点でした。さすがはタカシさん、意外なところで深謀遠慮ですね」
「それほどでもない。……って、意外は余計だ」
サリエの言葉に、俺はツッコミを入れる。
彼女は俺の妻であり、通常の加護を付与できるぐらいには忠義度が高いのだが……。
たまに毒舌を見せることがある。
まぁ別に良いけどさ。
「ヤマト連邦は島国だと聞く。しかし、鎖国状態のため具体的な支配領域は不透明だ」
「確かにそうですわね。具体的な国境も分からない状態では、ミッションの達成タイミングを推測するのは不可能ですわ」
俺の言葉に、リーゼロッテが頷く。
やはり、ちゃんとした教育を受けた貴族だよな。
普段はのほほんとしていても、基礎的な教養がしっかりとしている。
「ミッションが達成扱いになるタイミングとして、大きく3パターンを予想できる」
「3パターンですか?」
サリエが首を傾げる。
俺は頷いて、彼女の疑問に答えることにした。
「まず1つ目は、島に上陸した瞬間だ。これが最も直感的に納得できるだろう」
「なるほど。確かにそうですね」
「2つ目は、島に上陸して町や村に到着した瞬間だな。上陸箇所の周辺に人が住んでいなかった場合は、上陸地点がヤマト連邦の領域として判定されない可能性がある」
「ふむ……。つまり、島に上陸した瞬間にはミッションが達成扱いとはならず、町や村に到着した瞬間になるということですね?」
「そうだ」
俺は頷く。
ヤマト連邦は島国だが、それなりに広大らしい。
全ての領域にまんべんなく人が住んでいるとは限らない。
人の手がほとんど入っていない土地も、中にはあるかもしれないのだ。
「3つ目は、この隠密小型船がヤマト連邦付近の海域に辿り着いた瞬間だな。ヤマト連邦は鎖国国家として国境を警備している……そんな情報があった。ならば、島の海岸線の全てと、そこから目視できる範囲の海域が実質的なヤマト連邦の支配領域として見なされる可能性がある」
「ふむ……。そうなりますね」
サリエが納得したように頷いた。
もちろん、これらは俺の予想でしかない。
だが、こうしていくつかのパターンを考えておくのは大切なことだ。
「ミッションが達成されると、スキルポイント20が入る。それぞれ、どのスキルを取得したり強化したりするか決めておくように」
俺はそう言って、ミリオンズ全員を見据える。
これが言いたかったことだ。
スキルポイントが入ってから考え始めると、その後の潜入作戦開始のゴタゴタで強化しそびれるかもしれないからな。
事前に考えておくのが重要である。
「分かりましたわ」
「承知いたしました」
リーゼロッテとサリエが了承する。
他の面々も頷いてくれた。
よし、これで最初の議題は終了だな。
続きの話をしていくとしよう。
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