「……で、話を戻すんだけどさ」
イリーナが仕切り直すように言う。
「タカシちゃんを呼んだのは、『黒狼団』のことでも『闇蛇団』のことでもなくて……。ナオミちゃんの件なんだ」
「ナオミちゃんだな。ええっと、訓練を頑張り過ぎているのだったか?」
「うん。体を壊す前に、何とかしてあげないとって思ってるんだ」
「なるほど……」
確かに、部下の体調管理も上官の務めだ。
イリーナの立場であれば、俺以上に気になるだろう。
「それで、俺は何をすればいいんだ? 治療魔法で癒やせばいいのか?」
ムリをして傷ついた体は、治療魔法により回復させることができる。
また、疲労を取り除く効果も多少はある。
「ううん。それだと根本的な解決にはならないと思う。元気になったら、また鍛錬に励んじゃうよ」
「それもそうか……。なら、直接口で言うか? 『それ以上頑張る必要はない』と。それでもダメなら、強制的に休ませるか?」
「うーん……。それも考えたけど、せっかくやる気になっているからねぇ。頑張っていることを全面的に否定するのも良くないと思うんだよ」
「ふむ。難しいところだな……」
俺は考え込む。
加護付与スキルの副次的な恩恵により、俺は配下に対して適切に接してこれたと思う。
やる気が低めのキリヤやトリスタには仕事を無理強いせず、強さを第一に考えるクリスティには戦闘能力を見せつけ、家族や故郷に心配事を抱えるリンやニルスにはその心配事を取り除いてあげた。
俺がナオミに対してできることは……。
「そもそもだけどさ。タカシちゃんは、ナオミちゃんが頑張っている理由を知っている?」
「知っているも何も……。彼女は自分が実力不足だと思っているからだろう?」
彼女は騎士見習い。
当然、小隊長や一般騎士よりも戦闘能力が低いと見なされている。
「うん。でも、それだけじゃない気がするんだよね。だって、あの子は最近急激に成長しているし」
イリーナの言葉に、俺はハッとする。
彼女の言葉は正しい。
俺が王都に来てから、時おり指導を行ってきた。
『黒狼団』の件では人質に取られるという失態を犯したが、『闇蛇団』の件ではしっかりとした活躍を見せた。
「確かに、彼女はぐんぐん成長しているよな。もはや、騎士見習いのレベルではない」
俺の指導に加えて、加護(微)の対象になったという事情も大きい。
「そうだね。実力だけなら小隊長クラスかな? まぁ、統率力はまた別だから、すぐに小隊長っていうわけにはいかないけど。でも、見習い卒業は近いかもね」
イリーナがそう言って微笑んだ。
「それを伝えてやればいいんじゃないか? 自分の努力がしっかりと実を結んでいることを知れば、過剰な頑張りも抑制できるはずだ」
「その通り。でもね? 見習いの肩書きが取れるってことは、正式に騎士団に配属されるってことなんだ」
「何か問題が?」
「一度配属されたら、もう簡単に異動はできない。前例がないこともないんだけど……。基本的には、この国にいる限りずっと騎士として生きていくことになる。まだ若い彼女にとっては大きな決断だと思うんだよね」
「なるほど……。それはそうかもしれないな」
この国の軍属の規律はさほど厳しくはない。
だが、騎士団を辞めるともなれば、多少の不名誉な噂が流れるかもしれない。
「しかし、イリーナやレティシアの隊に配属されるのが最も良い選択だろ?」
「もちろんアタシたちは歓迎するけどね? でも、今の彼女にとってはもっと良い選択肢があると思うんだ。彼女が頑張りすぎている理由でもあるんだけど」
「どういうことだ?」
「もう……。タカシちゃんって、結構にぶいところもあるよね。つまり、ナオミちゃんはタカシちゃんに恋をしているんだよ」
「……はぁ!?」
突然のイリーナの発言に、俺は驚愕の声を上げる。
「あははは! やっぱり気づいてなかったか~!」
イリーナはお腹を抱えて笑い出す。
一方、レティシアは呆れた表情を浮かべていた。
「いや、待ってくれ……。まさか……。そんなはずはないだろう?」
「なんでさ? おかしいところなんてないでしょ?」
「いや……。まず、俺のどこに惚れる要素があるんだ?」
「うーん……。優しいところとか? 問答無用で強いところとか?」
言われてみれば、確かに俺は結構な優良物件か……。
加護目当てでいろんな人に優しく接してきた甲斐があった。
ナオミの忠義度は定期的にチェックしていたが、まさかそれほどだったとは。
「だが、一時的に王都へ来ているだけの男爵家当主と、王都騎士団の見習い騎士だぞ? いろいろと障害が……」
「それ、タカシちゃんが言う? 元奴隷の平民を第一夫人にしたり、他国の平民を第二夫人にしたり……。少数部族、他国のお姫様、この国の貴族……好き勝手に結婚してるじゃん。それに、結婚していないお遊びの相手も何人かいるんでしょ? 今さらだって」
「ぎくっ!」
いろいろバレているなぁ……。
だが、肉体関係まで結んで結婚していないのは、メイドのレインぐらいだぞ。
サリエの付き人オリビアや、御用達冒険者の花あたりとはそこまで進んでいないし。
「それで、結局のところ俺に何を求めているんだ?」
「ふふっ。それはね……」
イリーナは悪そうな笑みを浮かべ、耳打ちをしてきたのだった。
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