俺は海神ポセイドンの試練を受けている。
召喚された魔物を次々と撃破していった。
すると、ポセイドンの声と同時に視界が光で埋め尽くされた。
「……ちっ! 眩しいな……。で、次の相手は誰だって?」
『ココニイルゾ……矮小ナル者ヨ……』
ポセイドンの声が響くと同時に、周囲の海水が蠢いた。
そして現れたのは――巨大な石像だった。
「こいつぁ……」
俺は息を呑む。
巨大な石像は、神々しくて美しかった。
「お前が……いや、あなたがポセイドン様か?」
この神々しさから判断して、おそらく本物の神様だろう。
さすがに全知全能レベルではないだろうが……。
海神ポセイドンの名の通り、海を管轄する超常の存在である可能性は高い。
ここは敬語を使っておく方が無難だ。
『貴様ノ考エテイル通リデアル……』
俺の推測は当たっていたらしい。
ポセイドンの石像が、厳かに語り掛けてくる。
『コノ依代ヲ使用スルノモ久方ブリダ……。楽シマセテモラオウ』
神様が言う『久方ぶり』ってのは、何年ぐらいの話なのだろう?
数十年……数百年……。
あるいは、数千年の可能性もある。
雄大な話だ。
「いえ……。俺ごときが、海神ポセイドン様を楽しませることができるかどうか……うぐっ!?」
俺は不意に膝をついた。
全身に激痛が走る。
まるで、全身をバラバラに引き裂かれたかのような痛みだった。
『矮小ナル者ヨ……。ツマラヌコトヲ言ウナ」
「え?」
「貴様ハ我ヲ楽シマセル義務ガアル。コノ依代ヲ破壊スル程ノ気概ヲ見セテミヨ……』
「……くっ!」
俺は歯がみする。
どうやら、下手に出るだけでやり過ごせるような相手ではないらしい。
戦って楽しませろとの仰せだ。
神の名を冠する超常の存在を相手に……。
くそっ!
なんて難問なんだ!!
「後悔するなよ、海神野郎が……!!」
俺は剣を構える。
直後、ポセイドンの石像が動いた。
『来ルガイイ……!』
「言われなくてもな!」
俺は水中を蹴った。
「でぇりゃあ!!」
剣を振り下ろす。
だが、石像は斬れなかった。
剣で石を斬れないのは当たり前のようにも思えるが……。
チートで強化された俺が『紅剣アヴァロン』を使えば、普通の石なら斬れるはずだった。
『温イゾ……矮小ナ者ヨ……!』
ポセイドンの石像が俺を振り払う。
俺は吹き飛ばされて、海底を転がった。
「ごはっ!?」
『ソノ程度デハナイダロウ?』
ポセイドンの石像が言ってくる。
どうやらまだ足りないらしい。
「しょうがねぇ……やってやるぜ」
俺は再び剣を構える。
すると、ポセイドンの石像が口を開いた。
『貴様ノ名ヲ訊イテオコウ……』
「ナイトメア・ナイトだ」
俺が答えると、ポセイドンの石像が顔をしかめた。
『仮初メノ名デハナイ。真ナル名ヲ言ウガヨイ……!』
どうやら、偽名は通じないらしい。
なぜだ?
「……タカシ=ハイブリッジだ」
俺は本名を告げた。
どうせ偽名を言ったところで、見抜かれるのは目に見えている。
だったら、正直に名乗ってしまった方がいいだろう。
『ソレモ仮初メノ名デアロウ。真ノ名ヲ言ウガイイ』
「…………」
そこまでお見通しらしい。
俺は日本人だ。
たかしは本名だが、名字はハイブリッジではなかった。
まぁタカシ=ハイブリッジという名前にも馴染んできたし、別に偽名として使っている意識はないのだが……。
『サア、真ノ名ヲ告ゲヨ……!』
海神ポセイドンが迫る。
俺は覚悟を決めて、本当の名を告げることにしたのだった。
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