「ふふっ」
『む?』
「確かに痛いよ。左足も右手も……これほどの痛みを感じたのは初めてだ。この部屋じゃ、治療魔法も発動できないしね」
『で、あろう。我は汝の心を折るために、骨を砕いた。その痛みは……』
「でもさ」
アイリスが千手観音像の言葉を遮る。
そして、彼女は言った。
「いくら仏様だからって……人間を甘く見すぎているよ。手足を砕かれた程度で戦えなくなる? バカを言わないで!」
アイリスが動き出す。
左足と右手を複雑骨折している中、激痛を耐えるだけでも驚嘆に値するのだが……。
彼女は器用にも立ち上がってみせた。
そして、残り少なくなった聖闘気を高める。
「武闘とは……志の躍動! 志が激しく燃え上がれば闘志となり、闘志こそが敵を討ち倒す! ボクの心はまだ折れていない!!」
『なっ!? こ、これほどの闘気が……いったいどこに残っていたというのだ!? 不味い……我が負けるわけには……!』
「【聖・金剛裂天掌】!!!」
『【零乃手・合掌印(がっしょういん)】!!!』
ドゴォォン!!
アイリスと千手観音像のオーラが衝突する。
そして……その衝撃は部屋全体へと広がった。
「う、うぅ……」
『ぐ、ぐぅ……』
アイリスが体勢を崩して膝をつく。
一方の千手観音像も、もはや満身創痍だ。
像のあちこちが砕けている。
「はぁ、はぁ……。さ、さすがは仏様……。ただの依代ですら、こんなに強いなんて……」
『……否。この体は既に限界だ。汝の技術、闘気、そして何より精神力。まさに称賛に値する。我にはもう、戦う力は残されていない……』
「なら、ボクの……勝ちってこと……だね……」
アイリスが呟く。
確かに、千手観音像がこれ以上戦えないとすれば、アイリスの勝利だ。
しかし――
「…………」
『死んだか。……いや、気絶しただけか』
アイリスは意識を失い、地面に倒れ伏していた。
全てを出し尽くした彼女は、もう立ち上がれない。
『……よもや、全ての試練を突破されるとはな。何十年……何百年かに一人現れるかどうかの逸材ぞ。我が力を貸すに相応しい……』
千手観音像がそう呟き、その身を動かす。
そして、アイリスを持ち上げると、光始めた。
『……闇が大和の地に迫っている。人の身には過ぎたる災厄だが……。この者ならば、あるいは……』
千手観音像が何かを呟く。
しかし、その声は小さすぎて聞き取れない。
『……時間か。だが、その前に……』
やがて光が一層強くなり、千手観音像の動きが鈍くなっていった。
千手観音像によって手足を治療されたアイリスは、優しく地面に寝かされる。
『試練を突破せし者よ。汝に武運あれ……』
その言葉を最後に、千手観音像は光を失ったのだった……。
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