ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナは、アルカを追っていった。
俺は、アルカが召喚したクマと対峙している。
「さて。言葉がわかるとも思わないが、一応聞いておこう。降伏するなら、命まではとらないが?」
俺はクマに対してそう言う。
クマとはいっても、アルカのテイムを受けているクマだ。
言葉がわかる可能性も否定できない。
とりあえず、言っておいて損はない。
「がうっ!」
「おっと」
クマのパンチを、俺はひらりと躱す。
クマが俺を鋭い目でにらんでくる。
「ご主人様を守ろうという意思。確かに伝わってきたぞ。そうくるのなら、仕方ないな」
俺は剣を構える。
中型以上の魔物とのソロ戦は初めてだ。
気を引き締める必要がある。
とはいえ、パーティとしては中型の魔物を何度も狩ってきている。
それに、1対1での対人戦の経験も、ゾルフ砦でたくさん積んできた。
何の問題もない相手だろう。
「おらあっ!」
「がうっ!」
俺は剣で攻撃する。
対するクマは、パンチや噛みつきで反撃してくる。
時おりキックも使っている。
なかなか器用なクマだ。
しばらくは互角の戦いが続く。
お互いに多少のダメージを負った。
「やるな。接近戦では互角か。では、俺の魔法を味あわせてやろう」
このまま近接で戦い続けてもいいが、あまり時間をかけすぎるのはよくない。
ミティたちの様子が気になるからな。
俺はクマから距離をとり、火魔法の詠唱を開始する。
クマが俺へ接近してくるが、もう遅い。
「炎あれ。我が求むるは豪火球。五十本桜!」
ドドドドド!
50個のファイアーボールがクマを襲う。
1個1個の威力はさほどでもないが、50個もあれば驚異だろう。
クマの周りが煙で覆われる。
「ぐ、ぐあ……」
しばらくして、煙が晴れてくる。
クマは満身創痍だ。
大きなダメージを与えることに成功した。
そして、クマが力なく倒れる。
やはり、今の俺の相手ではなかったな。
「ふっ。思い知ったか。お前みたいなクマ畜生ごときでは、誰一人守れんのだ!!!」
俺はビシッとそう決めゼリフを言う。
「……さて。みんなに追いつかないとな」
俺はそう言って、クマから視線を離す。
アルカの召喚獣のようだし、無理にとどめを刺す必要もあるまい。
彼女から情報を聞き出すときに、何かの役に立つかもしれないしな。
さあ、ミティたちと合流しよう。
●●●
タカシがアルカのクマと交戦している頃。
ミティたちは、アルカを追っていた。
アルカは召喚獣のトラに乗っている。
トラの移動速度はなかなか速い。
とはいえ、ミティたちが追いつけないほどではない。
「止まりなさい! 止まらないと撃ちますよ!」
「あはは。楽しいなあ」
ミティの警告の声を、アルカが意に介した様子はない。
「仕方ありませんね。ビッグ……メテオ!」
「……レッドショット!」
ミティが投石、ユナが闘気を込めた弓矢で攻撃を仕掛ける。
「あはは。当たらないよーだ」
アルカがそれを何食わぬ顔で躱す。
正確に言えば、躱しているのはトラだが。
アルカが投石や弓矢の軌道を読み、トラに指示を出している。
「聖闘気、迅雷の型。……迅・砲撃連拳!」
「疾きこと風のごとし。……スリー・ワン・マシンガン!」
アイリスとモニカが超スピードで追いつき、アルカとトラに攻撃を仕掛ける。
「うひぃ。これはちょっと、さすがに……」
アルカがたまらず、悲鳴をあげる。
「とらっち。スピードアップだよ! がんばって! ……どうしたの?」
「ぐうう……」
アルカがトラに指示を出すが、トラの動きが速くならない。
むしろ鈍っている。
トラが全力を出せば、普段であればもっと速く移動できるはずだ。
先ほどまでは、追いかけっこを楽しむためにあえて速度を控えめにしていただけである。
「つ、土魔法。ロック・デ・ロックです。トラさんの動きは邪魔させていただきます」
ニムだ。
ニムの上級土魔法”ゴーレム生成”により、30センチほどの小さなゴーレムが生成された。
そのゴーレムが、先ほどの攻防のスキを突いて、トラの四肢にしがみついていた。
このゴーレムの重さにより、トラの動きが大きく阻害されているのだ。
ゴーレムをうまく制御した、見事な魔法の応用だ。
技のネーミングセンスが壊滅的なことを除けば、まさに天才的と言えるだろう。
「くー。やるなあ。仕方ない。戻って、とらっち」
アルカがそう言って、トラを償還する。
「おとなしく捕まる気になりましたか。安心してください。事情を話してくれれば、悪いようにはしません」
「あはは。まだまだ、もっと遊ぼうよ。僕は、モフモフのみんながいなくても結構強いよ? さあ、楽しもう」
アルカと、ミティたちの第2ラウンドが始まる。
はたして、勝つのはどちらか。
●●●
クマとの戦闘が終わった。
ミティたちと合流するために走り始めたとき、後ろから声が聞こえた。
「が、がうっ!」
「ん?」
後ろを振り返ってみる。
クマが起き上がっていた。
まだ戦うつもりのようだ。
「やめておけ。せっかく拾った命だろう。ご主人様のことが心配か? 悪いようにはしないさ」
若くてかわいい女の子だったしな。
使い道はいろいろとある。
ぐへへ。
「がうっ!」
おっと。
いかんいかん。
悪い企みが顔に出ていたようだ。
クマが不機嫌そうに威嚇してくる。
「やれやれ。まだやるつもりか」
俺は再び、交戦の構えをとる。
今度こそ、戦闘の意思をなくさせるぐらいの技を見せないとな。
となると……。
「俺の火魔法の真髄で倒してやる。始めに貴様を襲ったのは”五十本桜”。だが本来俺の究極の技は”百本桜”。貴様が勝つ確率は……ゼロだ!!!」
俺は火魔法の詠唱を開始する。
百本桜は少し長めの詠唱となるが、仕方ない。
このクマに実力の差を見せつけないといけないからな。
……ん?
「がうが!!!」
「…い!!!」
俺の首筋に、クマからの攻撃がクリーンヒットした。
先ほどまでより、一回り速い攻撃だ。
痛みに俺の動きが止まる。
「がうーが!!!」
「あぐ!!!?」
肩の上から振り下ろされるかのような攻撃。
俺は地面に叩きつけられる。
「がーうがっう!!! がう!!! がうががーう!!! がうー!!!」
「ぎゃあ」
背中、胸、もも。
怒涛の連撃。
俺は手も足も出ない。
マズイぞ。
体勢を立て直さないと。
「…オ!!! オノレ…!!!」
俺は何とか立ち上がる。
猛攻を受けつつも、詠唱は続けていた。
俺の火魔法で一発逆転だ。
「おのれっ!! 究極火魔法”百本…」
「がーがうがっう!!!!」
クマからのとどめの一撃。
俺は大きく吹き飛ばされる。
「がうーがう…がうがうが」
デザートは…要らねェか。
そんな言葉を幻聴した。
そして、俺は意識を失った。
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