「ぐっ……! お、おのれ……!!」
少女の連撃を受け、俺は思わず呻く。
くそ……。
どういうことだ?
チートで強化された俺に傷を負わせるなど、生半可な力ではあり得ない。
だが、目の前の少女は――俺の想像を超えた力を持っていた。
「舐めるな!!」
痛みを振り払い、俺は渾身の力で少女の剣を跳ね上げた。
鋼がぶつかる甲高い音が夜の帳を裂く。
次の瞬間、俺の拳が少女の腹部を捉えた。
固い筋肉の感触とともに、鈍い衝撃が指先に伝わる。
『……っ!!』
少女は反射的に後方へ跳び、衝撃を最小限に抑える。
しかし、その一瞬、彼女の瞳に驚愕と恐怖の色が浮かんだのを俺は見逃さなかった。
勝てる……!
そう確信しかけた瞬間、少女の表情が変わる。
迷いも恐れも消え、静かで澄んだ視線が俺を貫いた。
まるで嵐の中心に立つ者のように、絶対の静寂をまとって――。
『世界を渡りし者よ……。何故、貴方は大和を沈めるのですか?』
「はぁ? 何を言っている?」
俺は眉を顰める。意味がわからない。
俺はただ、記憶を取り戻すヒントを求めて近麗地方を支配しようとしているだけだ。
だが、少女は俺の困惑を気にも留めず、すっと片手を掲げた。
青白い光が指先に収束する。
嫌な予感が背筋を駆け上がる。
「なっ!?」
瞬間、閃光が放たれた。
咄嗟に身を捻る。
光弾が俺の頬を掠め、背後の地面に着弾。
轟音とともに爆風が巻き起こり、砂塵が視界を覆う。
熱風が肌を焦がすように焼き付いた。
やばい……!
様子見している場合じゃない。
俺は地を蹴り、一気に間合いを詰める。
少女の懐へと潜り込み、渾身の一撃を叩き込もうとする――が。
「ちっ……!」
少女はまるで風のように軽やかに跳び、俺の攻撃を紙一重で躱した。
手応えなし。
目の前にいたはずの少女は、すでに数歩先にいる。
この少女……強い。
単なる剣の腕だけじゃない。
何やら得体の知れない力を感じる。
だが、純粋な戦闘力なら、俺に分があるはずだ。
「紅葉、身を守っていろ」
背後に目をやる。
地面に横たわる紅葉の姿が視界に入る。
彼女はまだ動けない。
拘束を解くには、まず目の前の少女を倒さなければならない。
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