今日は、ミリオンズ組、使用人組、登用試験組、奴隷組が一堂に会した記念すべき日だ。
みんなで夕ご飯を食べる前に、それぞれ風呂に入ることになっている。
この屋敷の風呂は大きい。
一度に10人以上が入ることができる。
まずは、俺たちミリオンズ組が入浴する。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナだ。
みんなで脱衣所に向かう。
それぞれが服を脱ぎ始める。
「ふむ……。なるほど」
俺はみんなの脱衣をじっくりと見る。
メインはミティ、アイリス、モニカだ。
ニムはまだ幼いし、ユナとはまだ婚約していないからである。
「”ふむ……。なるほど”じゃないでしょ。真剣そうな顔で何を見ているのさ」
モニカが俺にそう文句を言う。
さすがにじっくりと見すぎたようだ。
「すまんすまん。気を取り直して、入ろうか」
俺たちは浴室に入る。
体を洗ってから、みんなで浴槽につかる。
いい湯加減だ。
力が抜けていく。
「ふふふ。俺は今、幸せを噛み締めている。可愛く美しいみんなといっしょに風呂に入れているからだ」
「えへへ。ありがとうございます。タカシ様」
ミティがうれしそうにそう言う。
彼女は小さくもたくましい体をしている。
「ほめてくれるのはうれしいけど。あんまりジロジロ見ないでね」
アイリスは、少し羞恥心が強いタイプだ。
肩までしっかりと湯船につかっているので、彼女の裸体はよく見えない。
鍛え抜かれたボディをじっくりと鑑賞したいところだが、本人が恥ずかしがるのでやめておこう。
「ふふ。タカシも、どんどん筋肉がついてきているねえ。いい体してるよ」
モニカが俺の腕を触りながら、そう言う。
最初の頃はスキルに頼り切りだったが、この1年間の冒険者生活で筋肉がついてきたように思う。
スキルは、イメージで言えば自転車の補助輪のようなものだ。
補助輪有りでずっと練習していると、いつの間にか補助輪無しでも何とかなるぐらいの力量がつく。
今の俺なら、例えば剣術スキルがなくなったとしても、ファイティングドッグぐらいであれば討伐できるだろう。
……たぶん。
「筋肉がつくと言えば、ニムも最近は成長してきているんじゃないか?」
「そ、そうですね。わたしも鍛え始めました。ミティさんに教えてもらっているのです」
ニムがそう言う。
ここで、ミリオンズの身体能力を整理しておこう。
腕力は、モニカ≦ユナ≦アイリス<タカシ≦ニム<<ミティ。
脚力は、ミティ<ユナ<タカシ≦ニム<アイリス<<モニカ。
体力は、モニカ≦ユナ<ミティ<アイリス≦ニム≦タカシとなっている。
腕力 脚力 体力 平均
ニム 2位 3位 2位 2.3位
タカシ 3位 4位 1位 2.7位
アイリス 4位 2位 3位 3.0位
ミティ 1位 6位 4位 3.7位
モニカ 6位 1位 6位 4.3位
ユナ 5位 5位 5位 5.0位
ニムは、腕力、脚力、体力のそれぞれにおいて高い水準にある。
ロックアーマーを装着した状態で俊敏に動けるよう、基礎ステータス向上系のスキルをたくさん伸ばしてきたからだ。
腕力はミティの次に強い。
最近では、ミティとニムでいっしょに筋トレをしているところを見かけることがある。
俺とアイリスもバランスよく身体能力が高い。
ミティは腕力、モニカは脚力に特化して伸ばしている。
「ふふん。私はもうちょっと鍛えたほうがいいのかしら。獣化状態なら、身体能力は上がるのだけど……」
弓と火魔法をメインとしているユナは、身体能力が控えめだ。
ミリオンズ内で、もっともスレンダーな体型をしている。
彼女の言う通り、獣化状態では身体能力が向上する。
現状で特に困っているわけではない。
「まあ、みんなの好きなように鍛えていけばいいさ。近いうちに、それぞれの力をどの方向に成長させていくか再確認しておかないとな」
俺はそう言う。
そんな感じで、ミリオンズ組の入浴時間は進んでいった。
●●●
タカシたちが風呂から上がった。
次は、男性組である。
セバス、キリヤ、トリスタ、ニルス、ネスターが風呂に入る。
「ふっ。それにしても、変わった貴族様だぜ。俺たち風情に同じ浴槽の利用を許すとはな」
「キリヤ殿。全てはお館様のご厚意です。侮辱は許しませんよ」
キリヤの礼儀に欠ける言葉に対して、セバスがそう注意する。
「ふっ。もちろん、そんなつもりはねえよ」
キリヤが平気な顔でそう返す。
彼は無愛想で礼儀がなっていないが、恩知らずというわけでは決してない。
セバスもそれを見抜いているため、それ以上の注意はしない。
「はあ。極楽極楽。これが本で読んだことのある風呂というものかい。これはいいものだ」
トリスタがふぬけた顔でそう言う。
「いいですね。俺も初めて入りました」
「俺は2度目だ。しかし、湯加減はこっちのほうがいいな。快適だ」
ニルスとネスターがそう言う。
ちなみに、彼らの序列は微妙なところである。
年齢、身分、採用時期がまちまちだからだ。
年齢は、トリスタ(10代中盤)<ニルス(10代後半)<キリヤ(20代前半)<ネスター(30代)<<セバス(60代)。
身分は、ニルス(主従契約の奴隷)<ネスター(条件付き主従契約の奴隷)<キリヤ=トリスタ=セバス(平民)。
採用時期は、ニルス=ネスター(今日)≦キリヤ=トリスタ(1週間ほど前)<セバス(3か月ほど前)となっている。
総合的に考えれば、ニルス<ネスター<トリスタ≦キリヤ<セバスといった上下関係が妥当だろうか。
セバスが上位者であることは共通認識であろう。
年齢、身分、採用時期の全てにおいて優位性があるからだ。
また、仕事の遂行能力も高い。
他の4人については、現状の上下関係の差は些細なものだ。
今後の仕事ぶりに応じて、タカシや周囲からの扱いも変わってくるだろう。
「ふっ。ヴィルナのやつも、喜びそうだな……」
「女性陣は確かに好きそうだね。ヒナも大はしゃぎするかもなあ」
「ハンナは緊張してそれどころじゃなくなるかもしれない」
キリヤ、トリスタ、ニルスがそう言う。
「ボウズたち、若いのにしっかりとしたお相手がいるんだな。ちゃっかりしてやがるぜ。ゴホッ」
「守るべき女性がいることはいいことです。ネスターさんも、シェリーさんのことを大切に思っているのでしょう? 私の目は誤魔化せませんよ」
「はは。参ったな……。奴隷になってしまったから、半ば諦めていたんだがな」
「お館様は優しいお方です。きちんとがんばっていけば、正当な報酬もいただけることでしょう。ハイブリッジ領の発展に向けて、みなさんともにがんばっていきましょうね」
セバスがその場をまとめるかのように、そう言う。
「ふっ。もちろんだぜ」
「僕もまあ、ぼちぼち……」
「俺は精一杯頑張ります!」
「俺も、持てる力は惜しみなく使わせてもらうぞ」
キリヤ、トリスタ、ニルス、ネスター。
4人がそれぞれ、今後に向けてやる気を覗かせる。
まあ、若干の温度差はあるが……。
そんな感じで、男性組の入浴時間は進んでいった。
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