「ちぃっ……! さすがは竜種と言ったところか……! 俺たちの水魔法を喰らってもなお、動き回れるとは……!!」
俺は歯噛みする。
アヴァロン迷宮の最深部に住まうファイアードラゴン。
俺とリーゼロッテさんは、こいつを討伐するためにこの地を訪れていた。
こいつさえ倒せば、ラスターレイン伯爵家に俺たちの仲が認めてもらえるはずなのだ……!
「タカシさん! あちらを!!」
「あれは……!?」
俺は目を見開く。
ここはダンジョンの最深部だったはずだが……。
いつの間にか、日の光が差し込んでいた。
「戦いで天井が崩れたのでしょうか……?」
「そのようですわ! これは願ってもないチャンスです! 戦いの場を海上へ移しますわよ!!」
リーゼロッテさんが魔法を詠唱する。
彼女は俺の加護を得たことにより、水魔法のスペシャリストとなっている。
俺もリーゼロッテさんも、ファイアードラゴンには相性がいい。
だが、俺たち二人をもってしても、この怪物相手では苦戦を強いられていた。
「いきますわ! ――【スプラッシュ】!!」
「【スプラッシュ】!!」
俺とリーゼロッテさんが魔法を放つ。
水しぶきがファイアードラゴンを包み込んだ。
もちろん、この程度はダメージにもならないだろう。
だが、奴の集中力を削ぐことはできる。
「こっちだ! ファイアードラゴンよ!!」
俺とリーゼロッテさんは、水魔法を利用してその場から移動する。
魔法で空中に水流を生み出して、それに身を任せるイメージだ。
重力魔法の自在性、火魔法の爆発的な加速性、風魔法による自然な立体機動性あたりと比べると、移動方法としてはやや劣る。
しかし、それでもこの魔法は便利だ。
魔法に特化している俺たちの脆弱な身体能力でも、ある程度の移動性能を発揮できる。
「ふふふ……。無事に海上まで移動できましたわね」
「ええ。ここなら水魔法使いである俺たちに有利です。飛んで火に入る夏の虫――いえ、飛んで海に入る火竜といったところですか」
「ふふっ……。タカシさんは面白いことを言いますわね」
俺とリーゼロッテさんが笑い合う。
すると、ファイアードラゴンが咆哮した。
「ぐっ……!」
「くぅ……!」
俺は思わず耳を塞ぐ。
リーゼロッテさんは苦悶の表情を浮かべた。
だが、すぐに体勢を立て直すと、ファイアードラゴンに向けて魔法を放つ。
「タカシさん!」
「ええ! 【アイスレイン】!!」
俺はリーゼロッテさんに追随するようにして水魔法を発動。
この魔法は、ファイアードラゴンの翼を捉える。
「効いてる……!」
俺は思わず快哉を上げる。
アヴァロン迷宮の最深部は、火口のような環境だった。
そのため、火を操るファイアードラゴンに有利だったのだが……。
ここは海。
水魔法を使う際に一から水を生成しなくて済む分、その他の工程に魔力を割くことができる。
俺とリーゼロッテさんの水魔法の威力は、先ほどまでよりも格段に上昇している。
「これならいける! うおおおおおぉっ!! 【大円海・宴帝】!!!」
俺は魔力を全開にし、水魔法を発動する。
ドッパァァァァ……!!!!
激しい音とともに、海水がファイアードラゴンを包みこんだ。
「この海すべてが俺たちの領域……。お前の敗因は、地の利を軽く見たことだ! さぁ、リーゼロッテさん! 今です!!」
「はあああぁっ! 【エターナルフォースブリザード】!!」
リーゼロッテさんが魔法を放つ。
彼女の放った水魔法は、ファイアードラゴンの巨体を氷漬けにした。
そして、氷の中の魔力反応が消失する。
「や、やったぞ……!」
俺は喜ぶ。
ファイアードラゴンが、最後に泣きそうな目をしていたのが気になったが……。
民衆に危険が及ぶかもしれない状況で、危険な竜種を放ってはおけない。
これで良かったはずだ。
「やりましたわね! タカシさん!!」
俺とリーゼロッテさんは熱い抱擁を交わす。
こうして、俺たちはファイアードラゴンを討伐したのだった――
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