夢を見ていた。
ここは……。
中学生のときの俺の部屋か。
「たかし君。どうかした? ボーッとしちゃって」
声をかけてきたのは、中学の時のクラスメートの女子だ。
名前は千秋。
大人しい雰囲気の、目立たない感じの女子である。
俺とは幼なじみの関係だ。
どうやら、中学生のときの夢を見ているようである。
一人称視点の夢だ。
せっかくだし、過去を満喫させてもらうか。
「ああ、ごめん。ちょっと考え事していただけだ」
「そう? てっきり、その宿題が難しすぎて悩んでいるのかと思ったよ。わたしも分かんないし」
「これはそんなに難しくないぞ。ほら、この公式を使ってさ」
俺は千秋に問題の解き方を教えていく。
「なるほどね~。これでいいんだ」
「うん。それで正解だよ」
「ありがとう! やっぱり、たかし君と勉強したら捗るよ」
「別に、これくらいならいつでも教えてやるけど?」
「本当!? じゃあ、これからもよろしくお願いね!」
「おう。まかせとけ」
それからも、夢の中の俺たちは勉強会を続けていった。
懐かしいな……。
幼なじみの彼女とは、こんな感じで結構仲が良かったんだよな。
年頃の少年少女が2人きりで勉強とか、漫画みたいな話だ。
「ねえ、たかし君。次はここの問題なんだけど……」
「ん? どれどれ」
俺は、彼女が指差した問題を覗き込む。
そのときだった。
さわっ。
俺の前髪と千秋の前髪が触れ合った。
「「あっ……」」
その瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まる。
「ご、ごめ……」
俺は謝罪しようとするが……。
「う、うわあっ!!」
千秋が突然立ち上がった。
それだけならまだいいのだが……。
ガコッ!
彼女が机に足を引っ掛け、バランスを崩す。
そのまま彼女は俺の方に倒れ込んできた。
ゴンッ!!
「いてぇ~」
「あうっ!」
俺は頭を押さえながら、痛そうな悲鳴を上げる。
一方の千秋も、頭を両手で押さえている。
どうやら、お互いの頭をぶつけてしまったらしい。
「「…………」」
しばらくの間、俺たちは無言で痛みに耐えていた。
ようやく落ち着いてきたが、今度は別の問題がある。
俺は仰向けに倒れ込んでいる。
そして、千秋はそんな俺の上に馬乗りになっていた。
彼女のスカートはめくれ、俺の下腹部に暖かな感触が伝わってくる。
あったな~、こんなこと。
素晴らしいラッキースケベだ。
しかし残念ながら、この後は普通に勉強を再開したんだよな。
お互いに顔を真っ赤にしながらの勉強だったので、青春のいい思い出ではあるのだが。
さあ、千秋よ。
俺の記憶の通り、無難に俺の股から下りるのだ。
そんなことを考えつつ、千秋の行動を待つ。
だが、なぜか彼女は全く動こうとしない。
むしろ、さらに体を密着させてきた。
「えへへ。たかし君の体って大きいよね」
おい、何やってるんだ!?
史実と違うぞ!
早くどいてくれ!
「わたし、ずっと前から思っていたの。いつか、たかし君とそういう関係になるのかなって……」
ちょ、ちょっと待て!
お前、まさか俺のこと好きだったのか?
いや、でもあの頃の俺に対する気持ちなんて、ただの幼なじみに対する親愛の情程度のものだったはずだ。
恋愛感情があったとは思えないのだが……。
くそっ!
そうと知っていれば、積極的に行動を起こしたのに!
「だから、今ここでしてもいいかな?」
いやいやいやいや、ダメだろ!
夢とはいえ、ご都合展開過ぎるぞ!
「たかし君は、嫌なの?」
千秋がそう言って、俺の股の上で腰を前後に動かし始めた。
やばいって。
俺の息子さんが元気になってきてる……。
「たかし君。わたしたち、恋人同士になろうよ」
「いや、俺には……」
俺にはミティという愛する妻がいる。
それに、アイリスやモニカも……。
いや待て。
彼女たちは、異世界に来てから知り合った女性たちだ。
いかんな。
昔の夢と現実がごっちゃになっている。
「ねえ……。いいでしょ?」
千秋が妖艶に微笑み、腰を前後に動かす。
気持ちいい……。
なんなんだこのリアルな感覚は。
まるで本当にヤッているような……。
「ああっ! や、やめてくれ千秋! 俺たちにそういうのはまだ早い!」
夢の中の俺たちは、まだ中学生だぞ。
キスぐらいならまだしも、大人の階段を上るのは早いだろ!
「んーん。遅いぐらいだよ。わたしはずっと待ってたんだから……。それなのに、急にいなくなって……」
千秋がそんなことを言いつつ、腰の動きを加速させていく。
「ずっと待ってた? 何の話だ? ……くうぅっ!」
夢の中とはいえ、意味深なことを言わないでほしい。
気になって夜しか眠れなくなるじゃないか。
いや、こんなことを考えている場合ではない。
千秋の腰使いに負けて、俺の中から熱いものがこみ上げてきている。
「たかし君のここ、すっごく熱いよ。わたしの方にも伝わってくる……」
千秋が頬を赤く染めながら、俺の顔を見つめてきた。
「ああ、もう限界だ。出るっ!!」
ドピュッ!!
俺は勢いよく出した。
「きゃっ!?」
同時に、千秋がビクンと痙攣する。
俺のズボンの中に、生暖かい液体が広がっていく。
彼女にも、この暖かさは伝わっているはずだ。
いや、そんなことよりも……。
やっちまったな、これは。
間違いなく夢精というやつだ。
いい年して、こんなことをしでかすとは。
早く起きて、メイドのレインやクルミナにバレないうちに洗濯しないと……。
俺はそんなことを考えつつ、目覚めに向けて意識を集中する。
幸い、俺のがんばりは通じたようだ。
夢の中の千秋の姿が薄れていく。
「今日のところはこれで満足したよ。……ばいばい、たかし君。また今度ね……」
「ああ、また会おう」
夢の中ではあるが、俺はなぜかその言葉を言うべきだと思ってしまった。
俺は異世界に来たのだし、彼女と再会できる可能性はかなり低いのだがな。
まあいい。
それよりも、さっさとパンツの洗濯をしないと。
夢の世界が閉じ、徐々に現実世界の意識が覚醒していく。
「…………ん?」
ぼんやりと目を開けた俺の視界には、想定外の光景が広がっていたのだった。
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