「ふぁああ……。よく寝たー」
草原で、一人の少女が大きく伸びをする。
薄い赤色の髪はボサボサで、全身に小さな擦り傷がある。
だが、彼女がそれを気にする素振りは一切ない。
ここは大和連邦北部『北烈地方』の『宮儀藩』。
一年を通して寒冷な気候だが、今日は天気がいい。
少女は草原で日向ぼっこをしていたようだ。
「やっぱり太陽はいいなぁ……。龍の姿になりたいけど……タカシが『目立つからダメ』って言ってたもんね。私、ちゃんと約束を守ってるよー……。……あっ!」
そんな少女の目の前に、多数の兵士たちからなる行列が現れる。
やがて、行列の中から1人の武将が護衛と共に進み出てきた。
体つきは少し小さく、右目には眼帯を付けている。
豪華な鎧を着込んでおり、明らかに集団のトップだ。
「ふむ……。『星読み士』の予言によると、ここらに強力な龍が住み着いたらしいのだが……」
武将は少女の存在に気付かないまま、周囲を見回す。
しかし、龍などどこにもいない。
「『星読み士』の予言が外れることなどありえるのか? ……まぁ、あやつもかなりの高齢だ。仕方あるまい」
武将はため息をつく。
すると、そんな時――
「ねぇねぇ! そこの人、どうしたのー?」
少女が武将に声をかけた。
「なっ!?」
突然声をかけられて驚いたのか、武将は後ずさる。
すかさず、周囲を固めていた護衛が少女を取り囲んだ。
「無礼者! このお方をどなたと心得る!?」
「え? 誰って……。えーっと……?」
少女は首をかしげる。
一方、護衛は激昂した様子で少女に迫った。
「貴様ぁ!! 平民とはいえ、『独眼龍』様を知らぬとは言わせんぞ!? 我らが宮儀藩の主君だろうが!!」
「えっ!? あ、ご、ごめんなさい!!」
少女は慌てて頭を下げる。
だが、独眼龍と呼ばれた武将は護衛を制した。
「構わん」
「で、ですが……」
「良いと言っている」
「……はっ」
護衛は下がる。
そして、独眼龍は改めて少女に向き直った。
「それで、貴様は何奴だ? なぜこんな草原で一人いる?」
独眼龍が鋭い眼光で少女を睨む。
そんな視線をものともせず、少女は答えた。
「私? 私は、ドラちゃんだよ。よろしくー」
少女――ドラちゃんは屈託のない笑みを浮かべる。
彼女の本名は『ドラゴヴィフィア=フレイムハート』。
しかし、異国の地でフルネームを名乗るつもりはなかったようだ。
そんな少女を見て、独眼龍の目つきがさらに鋭くなる。
「どらちゃん……銅鑼ちゃん? 変わった名前だな。貴様は、『星読み士』の予言にあった龍と知り合いなのか?」
「龍? ううん、この辺に龍の知り合いはいないよー」
「そうか。ま、当然だな」
独眼龍はため息をつく。
これまで、予言の精度はかなり高かった。
そんな場所にいる謎の少女なら、予言内容とも何らかの関係があってもおかしくはない。
そう思ったのだが、どうやら外れだったようだ。
「今回は収穫なし、か」
「独眼龍様、諦めるのはまだ早いかと……」
「分かっておる。せっかくここまで来たのだ。数日は滞在して、龍の手がかりを探してみよう」
「はっ」
独眼龍は護衛に指示を出す。
すると、ドラちゃんが不意に口を開いた。
「ねぇー。食べもの、ないー?」
「……貴様、図々しいな」
「えへへ。お腹すいたんだもん」
ドラちゃんは笑顔で答える。
その無邪気な表情に、独眼龍は思わず毒気を抜かれた。
「はぁ……。仕方ない。誰か、食料を分けてやれ」
「はっ!」
護衛が数人、ドラちゃんの前に出る。
食べ物を分けてもらえたドラちゃんは、あっさりと餌付けされた。
しかし、彼女こそが予言にあった『強力な龍』だとは、誰も想像すらしていないのであった。
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