俺は侍女リマと相互理解を深めていた。
そこに、邪魔者が入る。
洞窟の入口方面から、下卑た笑い声が聞こえてきたのだ。
「ぎゃははっ! どれどれ、こんなところに来た人族ってのはいったいどんな奴なのやら!」
「おい、あんまデカイ声出すなって! 姫さんとかジジイどもに聞こえるぞ?」
「平気だって。今は会議中だ。この洞窟になんて誰も来やしねぇよ」
そんな声と共に現れたのは、軽装鎧を身に着けた男たちだった。
人数は6人。
いずれも10代後半から20代前半ぐらいだろうか。
全員が同じような格好をしており、一様で粗野な印象を受ける。
「……ここに何の用だ? お前たち」
俺の問いかけに、男たちの1人が言った。
「おいおい……。人族さんよ、口の利き方に気を付けろよ? 俺たちは『海神の怒り』! 里の中でも選りすぐりの不良軍団だぜ? あぁん?」
リーダー格と思しき男が、俺に向かって威圧的に言う。
だが、別に怖くはない。
選りすぐりの不良軍団とか言っても、所詮はただの不良。
命がけで戦っている正規軍や冒険者に比べれば、恐るに足らない存在だ。
「その『海神の怒り』のリーダーはお前なのか?」
「そうさ! 俺がリーダーだよ。文句あんのか!?」
男が不機嫌そうな顔で言った。
「いや、文句はない。ただ気になっただけだ」
俺は素直な気持ちを口にする。
しかし、男は気に入らなかったらしい。
「んだとっ!? もういっぺん言ってみろや!!」
男は大声を出し、俺の胸倉をつかもうとしてきた。
その態度には品位のかけらもない。
(やれやれ……)
どうしたものか。
今の俺は、『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』で四肢を拘束されている。
この状態のままでは、少しばかり小細工をしなければ彼を撃退することは難しいかもしれない。
全力を出せば拘束を振りほどくことも可能だが、それは最後の手段だ。
危険な人族が暴走した――などと噂にされては、いろいろと面倒なことになる。
(さて……ここはどう対応するのが正解なんだ?)
俺が頭を悩ませていると――
「ちょ、ちょっと! やめてください!!」
リマが割って入った。
彼女は俺と男の間に立ちふさがると、キッと男を睨みつける。
「なんだてめぇは? 人族なんかの味方するのか?」
「はい! 人族であろうと、ナイト様は姫様の恩人です! わたしは姫様から、彼の世話をするように指示されました! 無礼は許しませんよ!!」
リマは凛とした声で言う。
10歳ぐらいの少女とは思えない、毅然とした態度だ。
「ちっ……。生意気なガキだぜ。姫さんに指示されたってことは、お前も王宮務めか。けっ! 気に入らねぇぜ!!」
男も、リマの態度が気に食わなかったようだ。
彼は忌々しそうに舌打ちをすると――
「まあ、いいさ……。ガキに用はねぇよ。ケガしたくなけりゃ、引っ込んでな!」
そう言って、リマを押しのけた。
「きゃっ!?」
彼女は小さな悲鳴を上げてよろける。
そして、そのまま尻もちをついてしまった。
「ふんっ! 姫さんも、なんでこんなガキを寄越したんだか……。いいか? ガキ。 次に生意気な口をきいたら容赦しねぇからな?」
男は苛立った様子で言った。
そして、仲間たちと共に俺を取り囲み始める。
「くっくっく! 薄汚ぇ人族め!」
「この場でボコボコにしてやるぜ!!」
「覚悟しやがれ!!」
男たちの下品な笑い声が響いた。
完全に、人族への偏見や嫌悪感に染まっている。
これ以上の会話は望めそうにない。
(さて……どうしたものかな?)
俺は考えを巡らせる。
侍女リマからの制止は不発だった。
人族の俺からの説得など、さらに難しいだろう。
ならば、力を解放してこいつらを倒してしまうか?
いや、ここは大人しくしておくべきだな。
俺には治療魔法がある。
ボコボコにされる演技は、少し前に『ダダダ団』を相手にやったばかりだ。
そのときの経験を活かして、上手く乗り切れば問題ないだろう。
「へへ……。いい声で鳴いてくれよ?」
男が言った。
そして、その拳が俺に迫る。
(闘気を極限まで抑えて……と)
俺の目的は、男たちを制圧することではない。
穏便にこの場を収めること。
なので、俺は闘気を一切放出せず、か弱い人族を装っていた。
だが――
「待ってください! 彼への手出しは――あうっ!?」
リマが俺と男との間に割り込んだ。
彼女は男の拳を受け、地面に倒れ込む。
「容赦しねぇと言ったはずだぜ? 人族の前に、お前を再起不能にしてやろうか? あぁん?」
男はリマの髪を掴み、強引に立たせる。
彼女は苦しそうに顔を歪めていた。
そんな彼女の様子を見て、俺は――
読み終わったら、ポイントを付けましょう!