俺のベッドから、全裸の少女リマが身を起こした。
普段ならば魅力的なだけの光景だが、今はマズイ。
エリオット王子や護衛兵たちもこの場にいるからだ。
しかも、俺とメルティーネの関係性についてひと悶着を起こしていた最中である。
今、この場を収められるのはメルティーネしかいないだろう。
「俺を信じてくれ!」
「人族など信じてはダメだ! もうお前は人族に近づくな!!」
俺とエリオットは、それぞれメルティーネに向かって叫ぶ。
だが、彼女は困惑した様子を見せるばかりだ。
「えっと……エリオット兄様? ナイ様の言っていることは本当ですの……」
「な、何を言っているんだ!? 女が裸でベッドにいたんだぞ!? 何もないわけがないだろう!?」
エリオットがメルティーネに反論する。
彼の意見も一理あるな……。
「ナイ様は……とても素晴らしい方ですの。人魚族と人族の融和のため、今の段階から体の構造を勉強してくれていましたの」
「そんな言い分が通用するか! お前は浮気をされていたんだぞ!?」
「浮気ではありませんの。2人の勉強会は、私も承知していたことですの」
メルティーネが反論する。
俺とリマの関係性は、事前にメルティーネも認識していたことだ。
まぁ、こっちはこっちで突発的な発覚となりヒヤリとしたこともあったのだが……。
「そういうことだ。俺とメルティーネは恋人同士。それはそれとして、別の少女に協力してもらって体の構造を勉強していた。ただそれだけのことだ」
「ぐっ……! 信じられん! やはり人族は嘘ばかり言う種族なのか……!!」
エリオットは頑なだった。
俺の行為によって、彼から人族への悪感情が増している気がする。
マズイぞ……。
「とりあえず、俺の今後を見てくれないか?」
俺は話題を逸らす。
このままでは埒が明かない。
この場でエリオットの誤解を解くより、それなりの時間をかけて信用してもらう方が確実だろう。
「解放された両腕を使って、俺はこの里に貢献していく。エリオット王子や他の人魚族たちに信用してもらえるよう、頑張っていくつもりだ」
「む……」
「俺は役に立つぞ? 俺にできることなら、何でもしてやろう。だから、この場はいったん終わりにしてくれないか?」
「……憎悪に支配されていては何も分からぬ……か」
エリオットがつぶやく。
そして、俺に対して告げる。
「……貴殿が浮気性なのは確定事項のように思えるが、人魚族全体にとって危険な存在であるかはまた別の話だ。俺は王族として、私情よりも責務を優先する」
「ということは……?」
「仕方あるまい。貴殿の活動を通して、未来を見極めさせてもらう。せいぜい、励むことだ」
エリオットが渋々といった感じで言う。
少なくとも、この場での追及は終わったようだ。
俺は内心で胸を撫で下ろす。
メルティーネやリマも安心した様子だ。
「ありがとう。今後、俺は治療岩で重傷者の治療に取り組んでいこうと思うんだ」
「ほう……? 軽傷者に続いて、重傷者か」
「だが、あそこの責任者の女性が俺に対して当たりが強くてな。『人族にはどうせ治せない』と言って、治療を任せてくれそうにないんだ。おそらくだが、今後取り組んでいく各種の現場でも似たような事例が発生すると思う」
「ふむ……。まぁ当然だな」
エリオットがうなずく。
ぽっと出の新参お手伝いが、重要な仕事を任せてくれと主張してきた――。
普通に考えて、安易に任せられるわけがない。
ましてや、その新参お手伝いが人族なら尚更だ。
「そこで提案だ。エリオット王子から事前に根回しをしておいてくれないか?」
「それはできん」
エリオットが即答する。
一刀両断されてしまった。
「俺は貴殿の活動に干渉しない。人魚族の偏見を取り除くのも、貴殿に期待された仕事だ」
「む……」
正論ではある。
まぁ、ジャイアントクラーケンの討伐に貢献した俺を一方的に拘束している側が言うのはどうかと思うが……。
「いいか? これは別に、可愛い妹を射止めた貴殿を逆恨みしているわけではない。あくまで、里のルールに則った判断だ」
「…………」
「貴殿がどのような仕事に取り組むかは自由だが、責任は自分自身で取ることになる。せめて、健闘を祈っておくぞ」
「……分かった」
俺は渋々とうなずく。
エリオットの俺に対する印象は、依然として悪いままのようだ。
半分はシスコンをこじらせた嫉妬が入っていると思う。
妹の彼氏が気に入らず、八つ当たりをしている気がするんだよなぁ……。
(まぁいい。とにかく、頑張っていかないとな。まずは治療岩の重傷者だ)
俺は気持ちを切り替える。
そして、エリオットたちが立ち去るのを静かに見送ったのだった。
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