次に遭遇したのは、見たことのない魔物だった。
毛の生えたボール型の魔物だ。
10匹ぐらいの群れ。
直径はだいたい10センチぐらいか。
直径20センチ以上の大きい個体もいる。
「見たことがない魔物です。みなさんはご存知ですか?」
「ああ。あれはクイックマリモだね。ちょっとめずらしい魔物だ」
ハルトマンたちは知っているようだ。
「討伐しますか?」
「危険度は少ないし、クイックマリモの素材はそこそこ高く買い取ってくれる。討伐しよう」
ハルトマンの判断により、討伐することになった。
「ではまず、私が火魔法で……ごふっ!?」
討伐の打ち合わせをしようとしたとき、お腹あたりに軽い衝撃があった。
だれかに殴られた?
いや、これは……。
「きたぞ! 散解して各個撃破を狙ってくれ。近くで戦うときは同士撃ちに気をつけろ!」
ハルトマンの指示により、各人が少し距離を取って戦い始める。
さっきの体への衝撃は、クイックマリモに体当たり攻撃されたものだったようだ。
結構距離があったのに、反応できなかった。
クイックマリモの動きはかなり速い。
その代わり、攻撃力はさほどでもないようだ。
油断しているところにモロに受けたのに、大きなダメージはなかった。
やや小さめの個体からの攻撃だったのも幸いだった。
基本的には危険性が低そうな魔物だ。
1人でいるときに数匹に囲まれてボコボコにされれば、さすがに少しやばいかもしれないが。
こちらの攻撃を当てられるかどうかが大切だ。
動きが速すぎて、対処が難しそうだ。
「せいっ」
剣で攻撃するが、当たらない。
「てえぃっ!」
ミティがハンマーで攻撃するが、当たらない。
ハルトマンたちの様子を見てみる。
彼らは、数回に1回程度は攻撃を当てることができている。
一方で、俺とミティの攻撃はクイックマリモになかなか当たらない。
厳しい相手だ。
数分の戦闘の後。
ハルトマンたちの活躍により、1匹を除いて無事に討伐された。
残ったのは少し大きめの個体だ。
「タカシ! 最後の1匹がそっちにいったぞ!」
俺から少し離れたところで戦闘していたハルトマンがそう言った。
クイックマリモがこっちに向かってくる。
落ち着け。
Dランクのハルトマンたちにできることが、俺にできないはずがない。
ステータス操作によって得た力を見せてやるんだ。
クイックマリモが俺に接近したところで軌道を変えた。
地面、木、岩。
そこらにあるものを活かして、立体的な軌道で俺を惑わしてくる。
超高速移動………!!!
は……速すぎる!!
くっ
マリモの軌道を追いきれないっ…!!
「タカシ!! 後ろ!!!」
ハルトマンの注意が聞こえる。
後ろ。
反応が間に合わない。
「ご…」
クイックマリモの強烈な体当たり。
俺の背中と脇腹あたりにクリーンヒットした。
「ごほっ。ゲェッ」
「タカシ様!?」
思わず倒れ込む。
最初に受けた攻撃よりもダメージは大きい。
大きな個体なので、攻撃力も高いということだ。
幸い、クイックマリモの追撃はなかった。
奴は、今度はハルトマンたちに向かっていった。
今のうちに自分に治療魔法をかけておく。
ミティが気遣ってくれる。
クイックマリモのあまりの速さに、ハルトマンたちでもすぐには討伐できない。
しかし、ある程度の対応はできている。
しばらくして、クイックマリモは討伐された。
ハルトマンたちがこちらに駆け寄ってくる。
「大丈夫か? タカシ」
かなりのダメージはあったが、骨折や内臓破損レベルではない。
せいぜい内出血ぐらいだ。
自分で治療魔法もかけておいたので、今後の活動に支障はない。
「大丈夫です。役に立てず、申し訳ない」
「いいよいいよ。リトルベアの討伐ではタカシの活躍が大きかったし。大きなケガはなさそうで良かったよ」
くそ…くそ!!
総合的な戦闘能力ならオレが上のはずっ
しかし…判断力や反応速度は奴等が上…
やはり、ステータス操作によりスキルを取得しただけでは、限界があるということか。
実戦で経験を積んで、スキルを体に馴染ませないととっさのときにボロが出る。
今後の課題だ。
クイックマリモの討伐に少し時間がかかったので、リトルベアの2匹目の討伐は中止になった。
おとなしく村へ向かう。
●●●
村へ向かう途中、三日月の舞がリトルベアと戦闘しているところに出くわした。
後衛の魔法使いの女が3人に、前衛の剣士の男が2人のパーティだ。
「あんたたち、いつも通りに時間を稼ぎなさい!」
「「承知!」」
エレナの指示に、前衛の男2人が返事をする。
リトルベアを牽制しつつ、慎重に攻撃を加えていく。
前衛の2人はDランクぐらいか。
本来は2人だけでリトルベアを相手にできるレベルではない。
防御寄りで慎重に戦っているため、何とかなっているようだ。
「ルリイ! テナ! 準備はいい!?」
「オーケー!」
「いつでもいいよ!」
「いくわよおっ! 三位一体!」
エレナ、ルリイ、テナ。
三日月の舞の魔法使いの女3人が、同時に詠唱を開始する。
タイミングを見て、前衛の2人が退避する。
「我が敵を滅せよ! ファイアトルネード!」
「我が敵を撃て! ライトニングブラスト!」
「我が敵を砕け! ストーンレイン!」
エレナが火魔法を、ルリイが雷魔法を、テナが土魔法を発動させる。
ファイアートルネードは火魔法レベル3だ。
レベル1から5まである内の3なので、中級といったところだ。
とはいえ、一般的には十分に強力な魔法ではある。
やはりCランクだけあって、なかなかの魔法を扱えるようだ。
ライトニングブラストとストーンレインは聞いたことがない。
おそらく、レベル2か3あたりの魔法だろう。
ファイアートルネードの炎がリトルベアを燃やす。
ライトニングブラストの電撃がリトルベアを貫く。
ストーンレインの石つぶてがリトルベアを襲う。
これではひとたまりもない。
リトルベアに大ダメージだ。
「ひえー。やっぱり高ランクの魔法使いはすごいなあ」
ハルトマンが感嘆したように言う。
「すごいですね。私も、早くあのレベルに達したいものです」
「タカシの火魔法も十分にすごいよ! 俺も使えたらなあ……」
ハルトマンは魔法を使えないようだ。
リトルベアの様子を改めて確認する。
かろうじてリトルベアはまだ立っているが、もはや戦闘は不可能だろう。
前衛の2人が再度近づき、とどめを刺した。
やはり、他のパーティと合同で活動したり、高ランクパーティの戦闘を見学したりすると、学ぶことが多い。
俺はステータス操作によりスキルだけはかなり優秀だが、明らかに経験不足だしな。
さきほどのクイックマリモ戦でもそれを痛感したところだ。
いろんな人からスキル外の技術や戦術を吸収していきたい。
見学を切り上げ、村に戻る。
村長に報告し、報奨金をもらう。
クイックマリモの素材も買い取ってもらう。
街まで持っていけばやや高くなるようだが、少し面倒なのでここで現金化しておく。
報奨金と買取金を9人で山分けした。
クイックマリモ戦で予想外の苦戦はあったものの、護衛依頼は概ね順調だ。
ラーグの街からゾルフ砦まで、半分は来ている。
後数日で着くだろう。
防衛戦の不安はあるが、見知らぬ土地を訪れるのは楽しみでもある。
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