(ふふふ。これは朗報だな)
騎士団によって賊どもが捕縛されていくのを眺めつつ、俺はニンマリと笑みを浮かべる。
シュタインが加護(小)の条件を満たしたのだ。
(思えば、シュタインとの付き合いも長いなぁ……)
彼を闇の瘴気から救い、さらには第一夫人のミサを治療した際に、忠義度30はあっさりと突破した。
その後、リバーサイドでの観光、アヴァロン迷宮の攻略やルクアージュの観光、ラーグの街で開催した合同結婚式、そして王都での俺の叙爵式に加え、今回の盗賊団掃討作戦。
これらを通して少しずつ忠義度が上がっていき、今回ついに40を突破したというわけだ。
(ハイブリッジ家の配下を除けば、男性としてはバルダイン陛下に次いで2人目か……)
忠義度は親愛度や友好度と言い換えても極端に大きなズレは生じない。
基本的には、恋人や親友、あるいは両親や愛弟子に対するような態度を取れば、忠義度を稼いでいくことができる。
ただし、効率的に忠義度を稼ごうとすれば、もう少し詳細な傾向の把握が必要だ。
俺がこの世界に転移してきて2年以上。
まだまだ検証不足だが、ある程度の傾向は掴めてきた。
(まず、”忠義”という言葉通り、俺よりも目上の者の忠義度は上がりづらく、目下の者は上がりやすいんだよな)
俺が駆け出し冒険者だった頃に加護の条件を満たしたのは3人。
ミティは奴隷であり、アイリスは武闘大会で俺に負け、マリアは祖国の窮地を俺に救われた。
その上、単純に年齢的に3人とも俺より年下であった。
加護を比較的満たしやすい条件が整っていたと言えるだろう。
マリアと同じく俺に祖国を救われた形となったバルダインは、俺に対してかなりの恩義を感じている様子ではあったが、その時点での忠義度は30台。
一国の王ともなれば、そこらの冒険者に窮地を救われたぐらいでは加護の条件を満たさないと推測された。
(冒険者ランクが上がって、騎士爵を授かってからは、条件を満たしやすくなった感覚があるよなぁ)
ハイブリッジ家の配下として登用したセバスやキリヤは加護(小)の条件を満たし、バリバリ働いてくれている。
また、レインには通常の加護の付与にも成功し、今後の活躍にも期待しているところだ。
(そしてトドメに、ベアトリクスの件も大きかったよなぁ……)
ベアトリクスの忠義度は、アヴァロン迷宮攻略の頃からかなり低めだった。
それなりの実力は示せていたと思うが、ファイアードラゴン戦やラスターレイン伯爵家戦を直に見られたわけではないという事情が大きいだろう。
その上、当時の俺は武功で騎士爵に成り上がったばかりの新貴族。
男としても見られていなかったはずだ。
その後、農業改革など内政面でも功績を上げた。
これは後で知ったのだが、この頃から『ハイブリッジ騎士爵を男爵位に引き上げてもいいのでは』という意見が出始めていたらしい。
俺の功績は十分に評価されていたのだ。
ベアトリクスは俺の王都への旅路に同行し、俺の実力を間近で見ることになった。
そして、俺とネルエラ陛下の決闘を見て、ついには忠義度40に達したというわけだ。
(対象者が女性の場合は、男として意識してもらえるかも重要らしい)
別に『女は男に忠義を誓うべき』などと主張するつもりはない。
思うに、忠義度とは『相手のためにどの程度自分を犠牲にできるか』という指標なのではないか。
それには恋愛関係になるのが早い。
俺の性別が女で、ミティやアイリスの性別が男だったとしても、同じように加護を付与できていたかもしれない。
(ま、考察はこの辺にしておくか。さて、肝心のシュタインのステータスは……)
俺はステータス画面に視線を落とす。
レベル?、シュタイン=ソーマ
種族:ヒューマン
身分:サザリアナ王国騎士爵
役割:リーダー
職業:剣士
ランク:B
HP:低め
MP:??
腕力:??
脚力:??
体力:??
器用:高め
魔力:??
残りスキルポイント:???
スキル:
剣術レベル5
闘気術レベル4(3+1)
聖魔法レベル4(3+1)
??
剣術のスキルがレベル5だ。
これはベアトリクスと同じだな。
超一流だ。
まあ、武功を評価されて騎士爵を授かるぐらいだから、当然と言えば当然なのだろうが。
聖魔法が使える点は大きいだろう。
ネルエラ陛下の話では、この国にはまだまだ使い手が少ないと言っていた。
闇の瘴気に対抗する有効な手段となる。
「……むっ!? これは……」
シュタインが突然声を上げ、俺はそちらへ目を向ける。
彼は自らの手を眺めながら、どこか困惑した表情を浮かべていた。
「気のせいか……? だが、これは……」
「どうかしたか? シュタイン」
「いや、少し身体の動きが良くなった気がしたのだ。勘違いかもしれんが」
「それは良かったじゃないか! これで次の大仕事も大丈夫そうだな!」
俺が笑顔で言うと、シュタインも口元を緩める。
彼は、ヤマト連邦への使節団の副団長に任命されているのだ。
戦闘能力が上がるに越したことはない。
「うむ、そうだな。我が盟友とともに戦うと、成長を促されているような気がするよ。やはりライバルを持つと刺激になるな」
なかなか鋭い。
シュタインは信頼できる男だ。
別に加護(小)のことを話してもいい。
しかし、普段は別行動だし、話しておくメリットもさほどないな。
彼を蔑ろにするわけではないのだが、とりあえずはまだ秘密にしておこう。
「ああ。俺もシュタインからはいい刺激をもらっているよ」
俺はそう無難に答えておく。
そうこうしている内に、後詰めのミリオンズの面々がこちらに向かってくる姿が見えてきたのだった。
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